<帯惹句> フェルナンド・ロペス=グラサは20世紀のポルトガルにおける、 |
最も多作な作曲家の一人です。リスボン音楽院で学び、その後パリへ留 |
学、ケクランに作曲と管弦楽法を学んでいます。1941年からはポルトガル |
で教鞭をとり、数多くの音楽家を育てあげました。ポルトガルの民謡やポ |
ピュラー音楽を題材にすることの多い彼の作品は、とても耳に馴染みやす |
く、またドラマティックな面も持ち合わせています。「素朴な組曲」の冒頭に |
現れるのどかな旋律を聴いていると、まるで草原で深呼吸をする時のよう |
な清々しさを感じさせてくれます。その後に続く速い部分はお約束通りに |
荒々しくと、全て聴き手の期待を裏切ることはありません。これらとは対照 |
的な「12月の詩曲」は、暗く陰鬱であり、この作曲家の懐の広さを感じさせ |
てくれることは間違いありません。とは言え「祝祭行進曲」や「交響曲」は |
やっぱり情熱的。手に汗握るようなわくわくする音楽です。 |
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音楽はたいそう気に入りましたが、上掲の惹句はワタシは違う気がしたな |
あ。特に、情熱的だとか陰鬱だとかはオーバーだと思う。 |
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(1)どこが田園?どこが素朴?(‘素朴な組曲’とも書いてある)?というく |
らいで、緩徐な部分も含めて、曲調のヴァラエティの豊かさは特筆もので |
しょう。 |
始めは「荒野の七人」やメキシコ、コープランドなんかを連想し、だんだん |
スペイン(お隣やもんねぇ)や地中海(接してはいませんが)の匂いもしは |
じめ、おしまいのほうではなんとヒナステラみたいな感じのところも現れ、 |
明るく噴火する。そうねえ、情熱的・・・と言えなくもないか。聴き飽きるか |
もしれないが、カラフルなオーケストレーションがたまらない、なんとも親 |
しみやすい音楽。 |
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(4)おしまいの交響曲のことを先に書きますと、(1)で出てきた様々な素 |
材を、お行儀よく3つの部分にまとめたものという感じかな。いわゆる交響 |
曲という力こぶを作ったような力みや形式感は全然ない。ヒンデミットの |
ような音色もあったりする。かっこいい。バラバラにしたら(1)みたいになる |
んじゃないか。書かれたのはこの(4)が先。オーケストレーションのうまさ |
は(1)のほうが優れている感じですが、交響曲のほうが音楽的には尖っ |
ているかも。ここまでいろいろ聞こえると、国籍不明は当然だなぁ。 |
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(2)始めに書いたように陰鬱ではないと思うが、死だとか墓地だとかいっ |
たものを連想させなくもない。でも湿り気がないとでもいうのかな。それに |
中間部では相当激しく盛り上がってしまう。‘死と変容’風。 |
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(3)基本マーチでできていて、さまざまな曲想が入り乱れる。ぴったりとい |
うわけではありませんが、構成的に「魔法使いの弟子」に似たところがあ |
るんじゃないでしょうか。おしまいのほうまでいかないと連想しませんけど |
ね。 |
それと・・・「トランペット吹きの子守歌」そっくりのメロディがずいぶん出て |
きます。やっぱりイタダキが多い方かもしれない。
(2)を除けば、いろんなものを連想させつつ、カラフルで明るく美しい音色 | のオーケストラサウンドがたっぷり楽しめる1枚です。 | 特に推薦するとすれば(1)と(2)。 | 多作家とのことですが、あまり録音は多くないよう。 | ほかにはピアノ協奏曲や室内楽、ピアノ曲、それに民謡関係の合唱ものが | 出ています。気が向いたら聴いてみましょう。 | ポルトガルのクラシック系の音楽は、スペインのものほど紹介もされていな | いようですが、スペインとはちょっと違った発達具合があったなんて書き方 | がある・・・、なんとなく我が意を得たり。 |
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