休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

テッド・チャン/あなたの人生の物語 4・5・6/8

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テッド・チャンあなたの人生の物語
 Ted Chiang/Stories Of Your Life And Others
1、「バビロンの塔」(The of Babylon, 1990)浅倉久志 
2、「理解」(Understand, 1991)公手成幸 
3、「ゼロで割る」(Division by Zero, 1991)浅倉久志 
4、「あなたの人生の物語(Story of Your Life, 1998)公手成幸 
5、「七十二文字」(Seventy-Two Letters, 2000)嶋田洋一 
6、「人類科学の進化」The Evolution of Human Science, 2000)古沢嘉通 
7、「地獄とは神の不在なり」(Hell Is the Absence of God, 2001)古沢嘉通 
8、「顔の美醜について  ドキュメンタリー」(Liking What You See :
    A Documentary, 2002)浅倉久志 
  「作品覚え書き」(Story Note)古沢嘉通 
  解説:山岸 
  2003年/ハヤカワ文庫/SF短編集/(近所の本屋にて)

6/18(売れてる本)という新聞の毎週のコラムでの紹介から;抄
 2003年にハヤカワ文庫で初版の出たテッド・チャンの短編集・・・ 
その表題作が「メッセージ」として映画化され、版を重ねて累計何と
15万部という。難解の誉れ高い短編集としては異例ではないか。
実際、収録作の解釈については日本のネット上でも侃々諤々で、
チャンの仕組んだ知のSFに、多くが巻き込まれている。・・・
 ・・・結末の「答え合わせ」をしたい層が原作を手に取ったという。
 ・・・根底にあるのは、言語により思考が定まるとする「サピア=
ウォーフの仮説」だ。その最大達成が表題作。女性言語学者ルイー
ズの実娘への呼びかけと、ルイーズが対するエイリアンの「表義文
字」の解読過程が、説明なしに交錯してゆく。 やがてその文字が
「過去と未来」を同時に意味化していると解明され、実娘への呼び
かけも、まだ見ぬ未来を「思い出している」とわかる。エイリアンの
認識がルイーズの生に、先の仮説そのままに作用したのだ。感涙
的な結末が用意される。
 映画「メッセージ」はこの短編に独自の形象を加えている。とりわ
けエイリアンの文字をふわりと浮かぶ墨状の円周形で示し、過去と
未来をつないだ点、さらには中国の上将を新たに造型した点。それ
で作品の中国性と「永劫回帰」理念がより深まったのだった。
                                (朝日/阿部嘉昭

4、あなたの人生の物語
福岡伸一先生が朝日のコラムで、アメリカで観たこの映画の印象を面
白おかしく紹介しておられ、俄然本を読んでみたくなったわけです。
その中では異星人の姿形がなんたって笑えました。こりゃあ昔の火星
人の想像図に近いじゃないか・・・。
まだDVDで観られるのは半年以上先のことでしょう。
楽しみです。映画のサントラはすでに聴いていまして猛烈におどろおど
ろしい。そのジャケットに映画の写真が載っていて、ジェレミー・レナー
フォレスト・ウィテカーがえらい深刻な顔つきをして写っているのを見
ると、相当重々しい感じに仕上がっているのかな。
ところが、この中編小説を読んだ限りではねぇ、この未知との遭遇は、
宇宙大戦争」とは中身も雰囲気も、言ってみりゃまるっきり逆。
地球中にどっと訪れた異星人は、どうして地球なんぞに来たんだか、
地球人にはトンと合点が行かない。各地で防衛の中枢や物理学者や
言語学者が対応するお話。この奇妙なコミュニケーションが、アメリ
における女性言語学者の苦労や感性、そして彼女の‘人生’を通して
描かれる。半分は研究、半分は彼女の娘に語りかける形。なんで人
生なんだ・・・とこれが難物。
映画じゃ、なんか暗そうなのに、、、異星人が来襲したにしては、小説
に漂う雰囲気は、ある種のんびりとし、おかしみや軽みがある。国防関
係が当然持つシリアスさとは実際は無縁。まぁ、彼女は言語学者として
責任重大なものだから、言葉や言語の解明にシャカリキではあるのだ
けれども、その言葉というのはたいそう変わったもの。時間の考え方が
入っていて、それがなんともとらえどころがない。実はこのお話のミソ。
福岡伸一先生の言い方だと、アルファベットより漢字に近い。) この
作者、ここまででわかっているようなものながら、説明をぜんぜんして
くれない。物語には長ーい時間が伴っているようでいないこと~ この
エイリアンの言語の成立の仕方にかかわっていること~ が徐々にわ
かってくる。上にこの女性学者先生の人生を通して、などと書いたが、
実はそうじゃなくて・・・ と、新聞の解説のようにはいかないが、こんな
ところにしましょう。自信を持って書けます、「まるで不十分にしか理解
していません!」                       
                              <★★★☆>(7/14)
 
    ※(朝日の本の解説の最後のところが引っかかります。上将?
      中国性? この辺り映画を観ないとわからないわけだけれ
      ど、映画の自分なりの解釈に影響があるかも・・・) そもそ
      も、こんなものよくも映画にしたもんです。

5、「七十二文字」
馬車が出てくるなど、近世風な道具立てながら、過去のものとも未来
のものともつかない、深読みを強いる‘空想科学’。
「名辞」というものがあって、何かそのものを規定する文言付きの名前
のようなもの。それを貼り付けるというかセットするなりすると、無機物
は‘作られているように’動く。オモチャや作業用ロボットなんかは、名
辞の力がもっとも端的に利く。完璧に正しい名辞は“真辞”という。
ここにそういう名辞を専門に作る命名師なるものがいる。
彼が王立のなんとか協会とかいうところから呼ばれてみれば、人類が
数世代後には生殖能力を失い、滅びてしまうとわかったという。ついて
命名師(他にはその道の指導的立場のお歴々が呼ばれている)とし
ての能力を‘有機物’にも発揮し、人類の存続に寄与してほしいのだが
・・・ と続く。
現代の生物学上の知見を想像力豊かにデフォルメ(かなり徹底してい
る)して見せてくれる感じですかねえ。
「名辞」というものがとにかくふるっている。
純化された人工的なDNAのようなもの、かつエンジン付き。
「性小名辞」となると、文字通り性の区分で、発達することで、人間でな
い娼婦などはすぐに発想される・・・
なんてのは枝葉でね、人類はどうなるのだ!
ここまでしての仮想世界に、今のワタシたちが感じ意識し続けなければ
ならないアイロニーや寓意にどんな意味があるんだろう、ややこしくて
読んだ感覚なんて維持できないではないか・・・
なんて野暮は言うまい。
深読みを強いると始めに書いたものの、あくまで著者の発想や表現を
我々は享受すればよろしいのであって、難しくても悩む必要はないの
かもね。
発想の性質が、最初の「バビロンの塔」の延長線上にあるような気が、
ちらっとしました。
                              <★★★△>(7/18)
6、「人類科学の進化」
超人類? なんじゃそれは・・・、例えば(5)の後にでてきたような?
新聞とか雑誌の記事のような体裁を採ったもの。これも作品なんだ。
英国の「ネイチャー」誌用に書かれたとか。ホントに載ったの?