(紹介文) このレクイエムの作曲家である、アントニオ・ピーニョ・バルガス(1951-) |
は実はポルトガルでも有数のジャズ・ピアニストとして知られている人です。彼の |
ジャズ・アルバムは世界中で高い人気を得ていて、その音楽もアルデッティ四重 |
奏団をはじめとした、様々な演奏家によって演奏されています。しかし、この「レク |
イエム」は極めてシリアスな音楽であり、これまでのキリスト教に基づいた過去の |
作品だけでなく、もっと人間の根源にあるもの…これは先史時代の恐怖と畏れな |
ども含めた「死」というものへの畏敬の念が込められた作品と言ってもよいのかも |
知れません。曲は捉えようによっては、素晴らしくドラマティックであり、まるで映 |
画音楽のような迫力をも有していますが、これも受け入れるべきものなのでしょう |
か。悲しみの中を漂うかのような「涙の日」、語りかけてくるかのような「サンクトゥ |
ス」などに独自の美を見出すことも可能です。「ユダ」はもっと現代的な響きを持っ |
た音楽で、テキストは4つの福音書から取られています。普遍的な言葉を音楽に |
載せながらも、幾多の理由から、ソリストを使わずに合唱のやりとりで物語を進め |
ていく様子は確かに見事としかいいようがありません。 |
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宗教ものに抵抗があるくせに、つい聴いてしまう。なんか、因果・・・ |
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(1)①~③くらいまでは何の宗教というより、キリスト教だけでなくユダヤ教、イス |
ラム教、ヒンドゥー教、仏教等でも共通して感じることのできる、どこかおどろおど |
ろしい面を音にしたような、もっというと、底なしの悪魔の領域を音にしたような感 |
じすらうける。キリスト教とイスラム教などがきっと混在しているであろう、ポルトガ |
ルの土地柄?なんだろうか。 |
⑤⑥は悲痛。⑦⑧ではきわめて密度の濃い美しさに充ちている。 |
⑨は①に似た音色なんだけど、もっと大仰だ。あるいは大仰な昇天という感じ。 |
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(2)ユダというタイトルから受けて当然のような、暗く激しく、鋭い音楽。合唱だけ |
の箇所も多い。 |
ユダが、聞き知っているような人間なら、イエスと他の弟子たちを裏切ることで深 |
く懊悩する人物像を想像するわけで、まさしくそういう不安な音楽になっているの |
ではないか。ところどころでハッとする美しさが現われるものの、不安の途切れる |
時はない。一部ではリゲティの音楽みたいに聞こえるところもあった。 |
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幕切れは唐突。 |
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有名なジャズ・ピアニストだそうだけれど、このオーケストレーション、この合唱を |
聴く限りでは、しかるべき教育は受けていたに違いない。古めかしさはなく、粗削 |
りな印象がありつつも、あくまで現代音楽。 |
とはいえ、なかなか特徴のある和音や音色だよね。ジャズと関係があるのかど |
うか、どう表現したらいいのかよくわからない。油気があるとでもいうような和音、 |
ティンパニの多用できわめて劇的で悲劇的、そして全体として色彩が濃い。様式 |
美みたいなものは感じない。 |
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ポルトガルの作曲家、まだまだちゃんと聴きたい人がいる。 |
ブラガ=サントス、フレイタス=ブランコ、フレイタス、グラサなど。彼らをすっ飛ばし |
たけれど、すごくはなくても、なかなか沁みて来る音楽で、癖になりそうな気配も。 |