映画音楽作曲家のちょっと変わったコンサート
20240114(了) |
~ デスプラ作品集
AIRLINES
①「シェイプ・オブ・ウォーター」(11:08) |
協奏交響曲『ペレアスとメリザンド』 ②第1楽章:追われた鳥のように 7:39 |
③第2楽章:彼らは光を見る 5:22 |
④第3楽章:鉛の露、容赦ない闇 6:19 |
⑤「ラスト、コーション」 2:22 |
⑥「真珠の耳飾りの少女」 7:26 |
⑦「記憶の棘」 7:36 |
⑧ エアラインズ 4:19 |
⑨「グランド・ブダペスト・ホテル」 4:08 |
エマニュエル・パユ(フルート) |
アレクサンドル・デスプラ作曲・指揮/フランス国立管弦楽団 |
録音:2018年12月、ラジオ・フランス、オーディトリアム、ライヴ! |
2020年/CD/映画音楽系〈協奏曲〉/WMJ/邦盤/中古 |
<★★★★> |
日本盤で、パユを全面に出していますが、もとは⑧がアルバムタイトル。 |
すべてライヴ録音のよう。①.⑤.⑥.⑨はフルートを独奏にしたアレンジを施した |
もので、そのスタイルでは初録音。②~④、⑦.⑧は元々フルートを中心にした |
もので、やはり初録音。 |
フルートのエマニュエル・パユはベルリン・フィルのトップでしたね。フランス |
系の室内楽のCDを何枚か聴きました。 |
デスプラはフルートと作曲を中心にクラシックの教育を受け、映画音楽の道に進 |
んで、既に猛烈な数の作曲をこなしているわけですが、この道に進むきっかけに |
になったのがキューブリックの『スパルタカス』の音楽だったそうな。音楽はア |
レックス・ノース。(ワタシ、ノース作品の中でも最も好きなサントラ!) |
どんな映画の音楽でもこなしてしまうオールラウンダーで、かなりの規模のオー |
ケストラ(例えば「ハリー・ポッター」もの)から小編成のものまでこなす。フ |
ランス人にしてはめずらしいほうかもしれない。小編成ものだと、フランソワ・ |
ド・ルーベのようなアイデアの利いた音色も作るし、ストリングスを加えて、ド |
ルリューやサルドのような品のいいフランス色の濃いものも書く。でもワタシが |
注目するのは、ギリシャ系の血のせいでしょうか、エスニック風味がものすごく |
上手いこと。そして、アメリカの雄ハンス・ジマー(実際はフランクフルトあた |
りが出身でしたね)と違ってるなあと思える点は、ちゃんとしたメロディをたい てい大切にしていることかなぁ。 |
例えば映画『預言者』(A Prophet/J・オーディアール)のサントラなんかは、エスニ |
ック風味のところ(そうでない部分も多かったはず)を聴き直したいと思ったの |
ですが、高くてずーっと放置してましたね。で、今や通販サイトのリストには見 |
つけられなくなっちゃった。『アルゴ』あたりなら(これはもう聴いちゃったけ ど)安いかなぁ。 |
そんなこんなで、これまでデスプラのサントラを、取り出しては殆ど聴いてきま |
せんでした。映画のせいで切に聴いてみたいサントラが多くなかったということ |
もなくはなかったのですが、つまるところ、中古屋だろうが通販だろうが、安く |
手に入るものがほとんどなかったから・・・ ま、ワタシにとっては、ジャズと |
映画音楽は、そのような問題含みであり続けてきので、クラシックを優先し、特 |
に映画音楽については、明らかに後手に回ったというか、追いかけるのが遅れて |
しまった感じです。 |
前置きが長くなってしまいました・・・ |
①「シェイプ・オブ・ウォーター」(パリ組曲): ギレルモ・デル・トロのSF系 |
ファンタジック・ラブストーリーで、ワタシはこの映画には正直ついて行けなか |
った。音楽は悪くなかった気がして、ちょっと気になっていたのですが、彼女の |
口笛がこんなふうに見事なフルート独奏とオケ伴に置き換わっているなんて、ビ ックリポン! |
②-④ なんと「ペレアスとメリザンド」。ドビュッシーやシェーンベルクの有名 |
曲を出すまでもなく、作曲家の創作意欲を掻き立てる素材らしい。協奏交響曲 |
となっているように、フルートだけが独奏を受け持つのでなく、オケの各パー |
トが協奏的に活躍する。映画のような制約の多い作曲法でなく、「自由にやり |
たい!」なんて答えてますね。様々に繊細で実に美しい音色が次から次へ出て |
来ますが、時にはかなり激しく大きな音になる時もあります。現代音楽的技法 |
はほぼないようでした。雄弁だと思いましたね。「映画音楽みたい!」なんて |
言うかたもいるでしょう。でもこれは映画には音が多過ぎて使えないですね、 きっと。 |
⑤「ラスト、コーション」。観ましたね、随分前です。2分ちょっとの曲はフ |
ルートのソロとオケに編曲が施されたものだとか。でも、元の音楽を全く覚え |
ていないので、寂しげで美しいフルートムードというぐらいですかね。サント |
ラは賞を獲ったとあります。 |
⑥『真珠の耳飾りの少女』、こんな映画があったんですね。フェルメール家の |
小間使いが絵のモデルになっていく過程を描いた歴史ドラマ。映画が評価され、 |
デスプラが国際的に活躍するきっかけになったとかで、楽曲も代表作の一つに |
数えられるんだそうな。マイナーな長く美しい主旋律(ここでは勿論フルート) |
をストリングスがオブリガートします。快活な部分が少し挟まります。そこで |
のトランペットがモリコーネ調(?)。メロディーが素敵。 |
⑦『記憶の棘』。ジョナサン・グレイザー監督のミステリー・ロマンス。これ |
も知らないです。中の3曲をメドレーに編曲。捉えられるメロディは少ない。 |
3曲目のワルツが美しい。ライナーのその部分に、デスプラが、楽譜を覗いて |
いるだけのパユさんの隣でフルートを吹いている写真が載っています。この曲 |
のフルートは殆どが2本なので、もう一本は作曲者自身が吹いているのかもし れないな。 |
⑧オリジナルのフルートソロ曲。パユのために書いた作品で世界初演。フルー |
トのことをよく知っているという曲なんでしょうね、想像ですが。 |
⑨『グランド・ブダペスト・ホテル』。この映画のサントラは長い間リストア |
ップしてあるのですが、こうして組曲にされたものを聴くと、手に入れる気が |
失せてしまいました。もっとも、たったの4分だけなのですがね。期待のエス |
ニック風味も東欧風味も案外入ってなくて、おっとりしたペーソス系。そうだ |
ったかもなぁ、と思い出したような気になりました。サントラはムリしなくて もいいかぁ・・・ |
フルートを独奏にして括って、ご自分の映画音楽を再構成してみたというコン |
セプトのアルバムで、作曲者としては結構チャレンジングだったのでしょう。 |
対象としては、映画音楽ファンのみならず、クラシック系の気分転換にも、ム |
ード音楽好きの人のちょっと変わった欲求にも応えるという感じ。 |
それから、なんたってライブです。 |
フルートの音がちょっとマイクが近い感じの録り方で、ほんの少し無理があっ |
た気がしないでもないですが、コンツェルト系はしょうがない。車中で、長く |
楽しみました。 |
映画音楽は「スタジオ録音の芸術」と言うデスプラさんのライナーでのコメン |
トのほんの一部(最初のところ)を載せてみますと・・・ |
あのやはり映画の申し子のようなハンス・ジマーがなんでもとりあえずはシン |
セで作って、いろいろ手を加えて行くような手法を取って映画に徹底的に寄り |
添い、映画音楽に大変革をもたらしたと言われるのとはだいぶん違い、むしろ |
旧態依然といっていいけれど、それでもやっぱりスタジオを出て、コンサート |
ホールでもってお客の前で演奏したいのはお二人とも同じなんやね。ジマーを |
持ち上げるドキュメンタリー番組(コンサート映像を多く含む)を観ていたら、 |
彼も同じようなことを言っていたのです。ちょっと意外でした。 |
(蛇足) |
1/11(木) 朝昼兼用の食事を採っている時、NHK-BSで始まったのが・・・ |
映画『あなたを抱きしめる日まで』。米・英・仏合作とある。でも基本英国も |
のでしょう。一度観たことがある。原題はPhilomena で、主役であるJ・デンチ |
さんの役名。アイルランドの婚外子を生んでしまった女性が子どもともども修 |
道院に入れられる。その後教条主義的院長が子どもをアメリカに売り飛ばす |
(養子に出す)なんてことをしていたんだが、そんなことをされた修道女の一 |
人フィローメナが偶然会ったジャーナリストの力を借りて、50年前に生き別れ |
た息子を探し始めるロードムーヴィー的苦労話。 |
最後にたどり着く昔リーダー的な修道女だったというドイツ系の名の老婆(の |
はず)が思いのほか元気で、最後でも凄まじい剣幕で教条を振りかざす。 |
ここで開陳される宗教談義に、Philomena自身はとてつもない忍耐と寛容を示 |
すんですが、、、(プロテスタントながらクリスチャンホーム育ちのワタシは |
宗教談義にはほとほとうんざり) 実話ベースなのだそうです。 |
その難しそうなドラマにピッタリの音楽を付けていたのが、思わず「ああ、や |
っぱり!」と言ってしまった。デスプラでした。 |
メインテーマは三拍子で、室内オケレベルの楽器数、仄暗いものの重くも大仰 |
にもならず、長いメロディはなく、さりげないながらもセンスのある楽曲が多 |
かったですね。 |
(ハイ、自慢話になっちゃったかも・・・ それだけの話です) |
毎度の自己満足で長くなってしまいました。 |