(素敵な時代小説でした)
| 20240113(了) |
『高瀬庄左衛門御留書』 砂原浩太朗
| 一年目 |
| おくれ毛/刃/遠方より来る/雪うさぎ/夏の日に |
| 二年目 |
| 嵐/遠い焰/罪と罠/花うつろい/落日 |
| 2012年/時代小説/講談社/単行本/中古 |
| <★★★★> |

| 神山藩という、どの地方だかわからない、たかだか10万石の小藩で群方を |
| 勤めている下級武士、高瀬庄左衛門。50歳ぐらい。妻延を失っているが、息 |
| 子が少々苦労はしたが、自分の群方を継ぐことになって、引退。のんびりで |
| きることになった。ところが息子が郷回り中に崖から転落してあっさり死ん |
| でしまう。庄左衛門は群方に復帰するも、寂寥と悔恨のなかに心はうつろう |
| ばかり。 |
| しかし、村々を見回るうちに少しづつ明るさを取り戻してゆく。さらに、つ |
| つましいばかりの生活の中にも、前向きな気持ちを失わずに持ち続けさせる |
| のに役立つのが、絵を書くこと、実家に帰した息子の嫁とその弟が庄左衛門 |
| の絵に惹かれ習いにくるになること、息子のエリートコース入りを阻んだ若 |
|
者と知り合いになること、ひょんなことからあるハグレ者と親しくなること、 等々。 |
| しかしそうした明るい部分に翳を落とし始める事件が、この小藩の暗部を徐 |
| 徐に露わにしてゆく。まあそういう連作短編集。江戸時代のどのあたりのこ |
| とかもワタシにはわかりませんでした。 |
| ワタシがたくさん読んだ時代小説は藤沢周平、池波正太郎、佐藤雅美、など |
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ですがそのいずれの中にも、この小説とちょっぴり通じるところがありまし たね。 |
| その中でも最も通じる部分が多かったのは、間違いなく藤沢周平でしょう。 |
| 心情吐露の部分もいいが、むしろ風景の描写なんかがそう思わせました。刀 |
| が出てくるシーンはちょっとしかなく(「花うつろい」)、意外なほど迫力 |
| のあった藤沢の斬り合いの場面と較べて、どうでしょうね。この庄左衛門さ |
| ん、若い時はそこそこ使えたが、寄る年波もあって、息があがり、よろけて |
| ばかりでした。そんな事件の直前に息子の死の真相がわかったりもします。 |
| 忍び寄ってくるのは政争の影のみならず、別のことにも巻き込まれる(巻き |
| 込まれるという書き方は正しくないけれど)ので、これは続きものとして成 |
| 立する気がする。連作が書かれ、まとめられたら読みたい。もっとも新刊は |
| 高くてすぐには読めないから、、、こういうのも読む気が起きる老人でいる |
| のは難しいかもしれない。(書評家としての北上次郎さん、次回作も必ず読 |
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みたい、と惹句を載せておられました。去年亡くなってしまわれましたけど ね) |
| 神山藩シリーズと銘打たれて何冊か出ていることからすると、藤沢の「海坂 |
| 藩」のように、同一藩内の色々なお話というふうな書かれ方をされるのかも |
| しれない。 |
| 文章は読みやすいものの、これは工夫なんでしょう、ところどころに意図的 |
| としか思えない古くさいかな遣い(武士言葉?)があったり、現代文ではそ |
| んなケースではあまり使わない副詞や動詞などに意外な漢字が使われたりし |
| ています。時代考証したうえで取りこまれたのかもしれません。もっとも、 |
| 特に抵抗はありませんでした。 |