20230122(了) |
極北/マーセル・セロー
1章~4章 |
訳;村上春樹 |
2012年/小説/中央公論新社/単行本/中古 |
FAR NORTH by Marcel Theroux ⓒ 2009 |
<★★★★△> |
たくさんのメモの中から、以下のようにしました、デタラメだけどネ・・・ 何か書きつけてみたくなる本でした。 |
英語のようなんで、カナダとかアラスカかなと思ったのですが、違ってて、こ |
こはロシア、大河レナ川の東側の北極圏でのお話。 |
もぬけの殻になったツンドラ地帯、タイガの小さな町で、人一人が警官のよう |
な見回りをやったりしながら自給自足、自適の生活をしている。クェーカ―教 |
徒の入植者の成れの果てなんだろうというぐらいで、始めは事情がろくすっぽ |
分からない。 |
ほぼ一人称で語られるこの話は、読み手の側からは、語り部(実は女性!)の |
波乱万丈の大冒険と言ってもいいと思う。 |
でも実際はそんなムードなんかじゃ全くない。ストーリーも個々の事件や状況 |
などもまったく類例のないもので、こう言っちゃあ相当語弊があるんだが、や |
たらつらい目の連続もいいところなのに、わくわくしながら読んでしまいまし た。 |
最初と言っていいピンチの時に、さらっと述べられるが、さすがに
帯に使うだけのことはある。ショッキングな個所・・・
ま、ショッキングなものは、いくつもいくつも出て来ます。
でもどうなんだろう、抑制された文体でもって的確に状況は表現してくれるが、 |
全体として何が起きているのか(あるいは既に起きたこと)については小出し |
にしか出してくれないし、ついにおぼろげなまま語り終えられてしまった、か |
もしれないですね。 |
ワタシの解釈としては、これは近未来のことで、遠くの戦争が及ぼした影響で |
人が大半死んだか逃げて、いなくなったと考え、その次にはどうやら「核」も |
絡んだに違いないと思って読みすすめました。当たらずとも遠からず、だった |
みたいです。放射能らしきもののことが少しずづ出て来ました。 |
雪と氷に閉ざされる冬と、かなり暑くなる夏の二つの季節しかないこの世界で、 |
彼女が一人で生きて行くにはまずいことがどんどん発生して来るし、ならず者 |
たちとの接点なしには、それが解決しない。そういった事柄がどんどんエスカ |
レートしてゆき、拉致までされてしまうわけです。 |
類例がないと書いたくせになんですが、、、砂漠だったら、たとえば古い「マ |
ッドマックス」のような図式が似ていなくもない、かな・・・ |
ひたすら寒くて殺伐としている。気がヘンにならないようにメモをし自制して |
いる(≒感情が麻痺している)というような体裁も採っている。マックスはま |
ぁ、メモは取りそうもないね(ハハハ)。 |
彼女自身の言葉と言っていいかどうか、不思議とわからないのですが、警句や |
箴言ふうなもの、一般的(≒確率的)な真実みたいなものが結構出て来ました。 |
「自制」と結びついたものなのかな。 |
南下して気温がかなり高いという場所の描写もあったけれど、非情な寒さを感 |
じながら読んだシーンが多かった。永久凍土が解けてできる穴ぼこなんてのは |
確かに出てこなかったものの、少しだけ「温暖化」を臭わせる表現はありまし |
た。 |
村上氏のあとがきを読んでも、解題は得られません。(いや、そうでもないか) |
でもま、そりゃそうですよね。こりゃあ面白いってんで、自分で翻訳する気に |
なったぐらいなんで、中身をばらしてくれるわけがない。ただこれだけは書い |
ておいてもよかろうってんで、3つほど惹句を挙げてます。「見事に力強い」 |
「先を読ませぬ」、そしてあえて言うなら「近未来小説」だって。 |
人類最後の局面、なんていう興味津々の言葉も最後につぶやいておられるが、 |
その理由はここでは紹介しません。そうそう、見事な翻訳だったと思います。 |
セロー一家は皆才人らしい。