休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

たんぽぽ娘/ロバート・F・ヤング(特別編集版)

20211205(メモ了)

たんぽぽ娘/ロバート・F・ヤング  

伊藤典夫・訳編

  特別急行がおくれた日
  河を下る旅
  エミリーと不滅の詩人たち
  神風
  たんぽぽ娘
  荒寥の地より
  主従問題
  第一次火星ミッション
  失われし時のかたみ
  最後の地球人、愛を求めて彷徨す
  11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス
  スターファインダー
  ジャンヌの弓
   (訳は他に深町真理子山田順子
    2013年/河出書房新社/奇想コレクション/単行本/中古

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たんぽぽ娘」(1961)

伊藤典夫(訳・編)によるヤングの第2短編集(奇想コレクション 最終回配本)
から、もっとも有名だと言われる作品。
 
仕事人間のこの男は年に2週間だけ休みを取り、別荘で家族と過ごす。
ところが今回は、カミサンが仕事で遠出してしまい、息子も遠くの大学に行っ
てしまって、自分一人で2週間を過ごさなきゃならなくなった。読書や釣りに
も飽きて散歩をしたら、「彼女」がいて、いっぺんにイカレテしまう。彼女の
もまんざらではないみたい。年はしかしかなり離れて男は40半ば、「彼女」
はまだ20か21ぐらいか。
ところが男のときめきが尋常じゃない・・・
カバーにも書いてある言葉を彼女が言う、「おとといは兎を見たわ、昨日は
鹿、今日はあなた」。
秘密めいた彼女は、父の作ったタイムマシンで過去へやって来た。タイムマ
シンの具合がよくないが、父の具合はもっとよくない、などなど、奇妙奇天
烈なことを言う。
それでも彼のときめきには影響はないようで、数日は会う約束をして会える
ものの、遂に会えなくなってしまって・・・悶々としたのち、ようやく会え
たと思ったら、彼女に事件が起きて(起きていて)、少し会話はできたもの
の、マシンの修理、時間警察の注意、等々で次の約束は難しそう・・・とい
うような話で、短編だから、だらだら続くわけじゃない。
 
今じゃ古めかしい時間SFなのかもしれないけれど、さすが名作と言われるだ
けのことはあって、素敵な余韻と、理屈の上での「ん?」で、後を引きまし
た。あるいはまた身につまされた・・・
時間SFとロマンスのドッキングした世界。なんとなくデジャヴ感覚も。
 
 
ヤングは日本にいたことがある(駐留したことがある?)せいか、日本び
いきで、「神風」(1984)という上記の前の作品は、その繋がりのよう。
宇宙での戦争で、神風という戦闘機に乗る男と、「爆弾として生まれてき
た女」との短い哀切な会話・・・ 飛ばします。
 
「荒寥の地より」(1987)
これも「時間」もの。
子供のころに住んでいた土地を処分し、唯一売らずに残した小高いところ
を相続して住むことになった男。
家を建てるべく整地し始めたところ、業者が何か見つけたという。
行ってみればそれは全体が緑青に覆われた真鍮の箱。こじ開けたところで
男はたちまち、その持ち主のことを思い出す・・・ 
40年以上は前のことやね。以降はその回想。
舞台はおそらく1930年代のアメリカで、アパラチア山脈にかかった東
部かな。
 
不景気で、貧乏な4人家族のところに、ひょんなことから地べたで震えな
がら寝ている汚い身なりの若者を助け、彼が居候することになる。一緒に
工場でジュース絞り等の季節労働的なことをしつつ、この一家に完全に馴
染んでゆく。身なりこそくたびれていたものの、人情は解し暖かい。そし
てどこか浮世離れした感じがあるんだが、時に驚くべき該博さをほとばし
らせる。例えば社会学的な教養なんかがどっと出てくる。
一家はなんでこんな知識や教養のあるやつが、といった疑問もことさら抱
かず、労働力や家族として、いてくれていることが当たり前という感じで
待遇し続ける。
ある時、季節の仕事がなくなり、一家のやりくりも火の車になる。
若者はまた旅に出ると言って夜、プイと出ていく。寒空に、列車に乗らな
きゃどこへだって行けやしないのに、その夜は列車は一度も近くの駅に停
車することはなかった。
語り部である男は当時はこの家の子供で、その若者と親しくしていたわけ
だが、列車に乗れたはずはないから、一体どうしたんだろうと気になり、
早朝、若者の雪についた足跡を追うと、若者は駅/線路の方向には行かず、
街へ向かっていて、なんとある所で靴跡がピタッと並び、そこからはどこ

にも靴跡がついていない・・・ そのことを男は親には話さないままにし

た。

 
そういうことを大人になった男は思い出す。
真鍮の箱の中に入っているものを一つ一つチェックしてゆくうち、あるこ

とを示唆していることに思い至る・・・ どうも明るくなさそうな未来ま

でも・・・

 
とまあ、そんな感じの話。古風。でも余韻がいいですねぇ。
これはロマンスは絡みませんでした。実はヤングの遺作だそうです。その

ことは知らなくてもよかったかも・・・ 

(って、感想はそれだけかい!)

 
紹介はこれだけにします。