休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

「怖い絵 3」 中野京子 (上)

前巻同様、解説が面白いので読んでしまいます

20240407(了)

「怖い絵 3」 中野京子 (1/2)

作品1   ボッティチェリヴィーナスの誕生』 1485年頃
作品2   レーピン『皇女ソフィア』 1879年
作品3   伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』 1599年?
作品4   ヨルダーンス『豆の王様』 1640-45年
作品5   ルーベンス『メドゥーサの首』 1617年
作品6   シーレ『死と乙女』 1915年
作品7   伝ブリューゲルイカロスの墜落』 16世紀後半
作品8   ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』 1659年
作品9   ミケランジェロ『聖家族』 1503~04年頃
作品10 ドラクロワ『怒れるメディア』 1838年
作品11 ゴヤマドリッド、1808年5月3日』
作品12 レッドグレイヴ『かわいそうな先生』 1844年
作品13 レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』 1510年頃
作品14 フーケ『ムーランの聖母子』  1420~80頃
作品15 ベックリンケンタウロスの闘い』 1873年
作品16 ホガース『ジン横丁』  1751年
作品17 ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』 1749年

 

  2009年6月/絵画エッセイ/朝日出版社/単行本/中古
  <★★★☆>

「さらに怖い、待望の第3弾」 とあります。今回も、解説に面白いものはあ
りましたが、選ばれている絵自体にゾワゾワするものはありませんでした。
 
(1)ボッティチェリヴィーナスの誕生がなんで怖いねん! 
いろいろ美しいと言いながら、先生、徐々に難癖をつけ始める。 ヴィーナスの
体形を皮切りに。モデルが肺結核だったからかも、とか、瑕があるからこそ名
作だあ・・・などなど。そのあとは、ヴィーナスの生まれたわけの解説へ。確
かにおぞましい神々のお話。これは、絵より神話とはいえ、意外や裏話が怖い。
(2)レーピン『皇女ソフィア』ピョートル大帝とソフィアのドロドロ話は、
この皇女ソフィアの強烈な絵同様怖い。かの「プの字」がピョートルに憧れて
いた、みたいな話って、あったんじゃない?

     (こんな絵、誰が依頼するんだろう 写真的な意味合いかもね

                      仁王立ちではなく、何かにもたれているので、それでも少し

      は柔らかいか)

 

(5)ルーベンス『メドゥーサの首』は人工的な怖さで、同じく人口美である
オペラが好きな人には受けるんじゃないか、だって。なるほど。もっとも、毛
髪に当たるヘビどもは、どう見ても毛髪には見えない。
文中にカラヴァッジョのメドゥーサが載っていて、ワタシはこれのほうがおぞ
ましい。(カラヴァッジョは好きな画家です!) でも怖さという点ではこの
「メドゥーサ」ほどじゃないかもしれないけれど、日本人には最後に載せてあ
北斎の「生首図」が直截的で断然抜きんでいる。ギリシャ神話に馴染んでき
たヨーロッパの人たちにとっては、この3つのどれが怖いだろう。

     (参考として載っていました。さすが北斎、日本人にとっては、

      生理的にかなり来ますな)

  ・・・「恐怖」というエンターテインメントを見せられている気がする。
  貶しているわけではない。そこが好き嫌いの分かれる点だと思われるの
  だ。人口美の極致という点でいえば、オペラとよく似ている。「こんに
  ちは、さようなら」まで朗々と歌いあげる非リアリズムの世界に酔える
  者には、ルーベンスの芝居がかった世界もすばらしく魅力的と映る。
ここでいうオペラはロマン派のものを指すのだろうが、まあ、なるほどです。
中野先生のオペラに関する記述にはちょっぴり棘がありますな。
そのあと、ルーベンスが描かなかったもの、まったく関心を寄せなかったも
のがあって、それは「庶民の日常」だって。

 

(6)シーレのすごさは少しはわかるけれど、好きではないです。シューベルト
の「死と乙女」(1824)から説き起こしていながら、話は、死=死神 ではなく、
シーレと彼女と奥さんに若くして訪れる運命的な死の話のほうに移行して行きま
す。画力と俗物シーレ。絵はかなり薄気味悪くて、死神っぽく見え、まぁコワイ
とも言える。ところが、お話によれば、女と抱き合っている男は見栄えは死神の
ようにおぞましい感じだが、実はシーレに相当するような卑俗な人間なんだそう
な。(そうなの? せっかくここまで怖いのに・・・) 

例えばミレーの『死ときこり』(1859)のようなゾォーッとするような死(死神)

の話に進めば興味深かった(死の「ちょっかい」というふうで怖すぎ! まぁワタ

シにはそうです)のですが・・・

         (これ、かなり前から記憶に残っているミレー)

   (「死と乙女」つながりで本編に挙げてあるH・バルドゥング

    の「死と乙女」〈1517〉で、これは現代人から見てさす

    がにヘンテコリン)

 

(8)ベラスケスの見事な絵。例の近親相姦のことは素通りするも、赤ん坊や幼
児の扱いに関する習俗(swaddling、ぐるぐる巻きにするヤツ)については詳し
く書かれていて、それも20世紀まで続いていたというので、ちょっとびっく
り。幼児までは男児に女の子のかっこうをさせる習俗があったこともしかり。

その辺を知れば、確かにこのニ三歳の王子の薄幸がしのばれよう、というもの。

怖さではなく、見事な絵にタメ息・・・

 

(9)ミケランジェロ 聖家族のうちのヨセフ(聖ヨセフ)の扱われ方に言及して

いて、怖いというより、妙な年寄り扱いが可哀想だというのに笑ってしまう。

 

(10)ドラクロワ 王女メディアのおかれた立場と怒りを、こうもうまく書かれる

と、納得せざるを得ない。紀元前5世紀のエウリピデスの「メディア」の一瞬が

ものの見事に切り取られている・・・ 話を知らなきゃ、100%誤解するだろう

けど。

 

(13)ダ・ヴィンチ 聖アンナと聖マリアの坐り方が異常。ヘン。フロイトの説

を長々解説してくれているが、これがさらにヘン。

 

(14)フーケ 聖母のモデルがシャルル7世の寵姫アニエス・ソレル。人前で乳

房を晒したり、常に政治参加したり、なにかと物議を醸した。毒殺されたとも言
われたが、色遣いが奇天烈で気色悪い絵。肌の色が不健康に白く、美白のため水
銀を常用したのが死を招いたのかも、とも言われる。

 

(15)神話的な世界を想像力豊かに、かつリアルに描いたベックリン

好みじゃないけれど、つい目を奪われるのも確か。象徴主義? ケンタウロスの話
が面白い。ただ、この絵の写真の色が良くない感じ。

 

(16)ホガース 100年以上あとの「ジャック・ザ・リッパー」につながってで

もいるかのような英国の黒歴史。でも、この銅版画は情報の多いリアルな風刺漫
画の世界というだけで、とても魅力的とは思えない。怖さもない。

 

ここいらで休憩。

残り3つが長くなったので分けることにします。