休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

「怖い絵 2」 中野京子

20231227(了)

「怖い絵 2」 中野京子

作品1  レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』 1632
作品2  ピカソ『泣く女』 1937
作品3  ルーベンス『パリスの審判』 1632-35
作品4  エッシャー『相対性』 1953
作品5  カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』 1675頃
作品6  ベラスケス『ラス・メニーナス 1656
作品7  ハント『シャロットの乙女』1905
作品8  フォンテーヌブロー派の逸名画家『ガブリエル・デストレとその妹』1600
作品9  ベックリン『死の島』 1880
作品10 ジェラール『レカミエ夫人の肖像』 1805
作品11 ボッティチェリ『ホロフェルネスの遺体発見』 1470頃
作品12 ブレイク『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』 1803
作品13 カルパッチョ『聖ゲオルギウスと竜』 1502~07
作品14 ミレー『晩鐘』 1859
作品15 ドラローシュ『レディ・ジェーン・グレイの処刑』 1833
作品16 ホガース『精神病院にて』 1733
作品17 ブリューゲルベツレヘムの嬰児虐殺』 1565年ごろ
作品18 ヴェロッキオ『キリストの洗礼』 1473頃
作品19 ビアズリーサロメ』 1894
作品20 ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』 1434
 あとがき
 参考文献
 
  2008年/絵画エッセイ/朝日出版社/単行本/中古

  <★★★☆>

絵は詳しくはありませんが、ほんの時々観たくなります。
色んな絵の背景がたいてい面白い。絵自体は怖さを覚えないもののほうが多
いけどね。怖さに拘らないほうがいいみたい。濃い絵を楽しむつもり。

(1)レンブラントの有名な出世作は知らぬものなどいないでしょうが、17世
紀の医者の世界や解剖に関する裏話がなかなか怖いですね。集団で書いてもら
った肖像画だったんだ。
(2)盛大に泣く女が解説されている。怖さは、女好きでサディストピカソが、
泣かせて観察する残酷で貪欲な表現意欲、ってことになるのか・・・ 著者の言
葉遣いが妙にキツイ!
(3)今とは美の基準が違う。とまれゼウスのずるさが生んだ変なシチュエーシ
ョン。知られた話で、ルーベンスの頭の良さが出ていて、怖さはいまいち。
(4)銅版画。中野先生の言うように、人物に色を付けるとわかりいい。この騙
し絵は思った以上に面白い。「空想感」とか酩酊感が伴う20世紀の異端の絵。
安野光雅さんも描いてましたね、酩酊感より楽しさの。
(5)萩原朔太郎の変な詩から書き始められてます。この画家は知りませんが、
このスペイン王室のカルロス二世は見るからに病的! 背景を読んで更にゾワ
ゾワとする。血族結婚の連続の果てなんだな。
(6)上記にも関係しているベラスケス。この絵は少女の部分しか見たことない。
でかい絵。愛玩物としての倭人の扱われようの怖さ、そんな時代の空気の怖さ、
か。なるほどなぁ。(5)の怖さとダブる。天才ベラスケスは過労死なんだ・・・
(7)知らない。背が高くスタイルもいい。シャロットの恋心の爆発(髪の毛!)
が、彼女をここに閉じ込めた側と、これを観る男性を怖がらせる・・・ ウーン
(8)女が隣の女の乳首をつまんでいる絵、最近テレビで見たなぁ。アンリ4世
との関係のバックボーンが複雑至極で、ガブリエルの死因も含め、この絵の描か
れた時期によって、解釈がさらにややこしい。そうした暗さと怖さ。
(9)糸杉は死にまつわる話を目いっぱい着込んだような樹なんだ。そんなこと
も知らなんだ。ゴッホ・・・ それにしても不可解で奇妙な雰囲気の島。5ヴァ
ージョンの内の最初のもの。インスパイアされたラフマニノフ交響詩を書き、
ファンであったヒットラーが集め飾り、あの「エイリアン」のギーガーがオマー
ジュ作品(気色悪っ!)をものした。大人気作品!
(10)寒くても下着風ドレスという流行りが、フランス革命後、死に化粧を加え
て過激化した話。何が怖いかわからない。
(11)部分の欠けた体でも美しいと愛でることあたりを怖さに結びつけているの
だろうか。誰がやったかはわかっている。ユダヤ人ユーディト。それより「対」
となる絵からもわかる通り、この死体は若々しすぎて、ホロフェルネスとは言い
難いという点のほうが面白い。
(12)竜と人が合体した異常に筋肉質の悪魔の化身は、200年前とは思えない
えげつないほどのリアルさ。フラゴナールゴヤもまだ生きており、ダヴィッド
ターナー、アングルの時代・・・ トマス・ハリスの『レッド・ドラゴン
引き合いに出してもいるが、つまるところ不遇であったブレイクのこと。絵や詩
などでなんとか内なる獣を抑えたんだろうという著者の言葉は、なかなかもっと
もらしいと思う。
(13)食べ物のカルパッチョの由来の画家、といっても直接的由来じゃない。
前の(12)の竜がすごいので分が悪いが、この絵の気色悪さは、竜の食い残し
様・・・
(14)今でこそのこの名画、時代や人によって解釈が異なったという。紹介され
るダリの分析たるや、ここまでねじ曲げるか!というほどの病的かつおぞましい
もの。怖いというより、あきれてしまう。もっとも、ミレーがもともとは決して

清貧だったわけではないのは本当らしいけれど。『死と樵』のほうなら、めちゃ

コワイ。

(15)英国最初の女王の最期。ちぐはぐな感じの絵ながら印象的。歴史を知ると
更に。
(16)これも英国。精神病院の中に入って、金を出して(動物園よろしく)見物? 
マスターベーションをやってもキチガイ扱いされた?
(17)場所はオランダだが、内容はベツレヘムの例の赤ん坊探しと殺害。それを
ブリューゲル二世(息子)が命を受けて改ざんしたもんだから、赤子の死体はな
いし、何が書いてあるかもわからなくなってしまった・・・
(18)バプテスマのヨハネがイエスに洗礼を施している、いたってありふれた絵
の内、右端の天使のおかげで、違和感が強いと著者。共同作業でやる工房の仕事
ゆえ。この天使などをダヴィンチ村出身の少年が見事に描きすぎてしまっている
ままになったというこの絵の経緯がミソ。ヴェロッキオはこの後、絵は描かなく
なったという後日譚の怖さを述べておられる。
(19)ビアズリーがワイルドの「サロメ」の戯曲本に描いた挿絵。マンガの絵自体
には特に面白味は感じないけれど、サロメ」のお話の変遷(それもめちゃくち
ゃな)については、ものすごく勉強になりました。

(20)見るからに気色悪い。カバーの絵がその元(凶)・・・

色もピントもうまく出ないのが残念。

新婚のカップルが描かれている。新妻は若いが新郎は中年に見える。
82×60サイズに驚異的な細密描写で、婚姻にまつわる慣習も徹底的に踏まえ、構
成的にも神経が行き届いている。他にも色々と解説を誘うところがあるのでしょ
う、著者もイライラしながら紹介してくれる。しかし言いたいのは、600年たっ
ても「人気」が高い(!?)わけであって、それはとりもなおさず新郎の顔じゃ
ないかってこと。本人は他にも描かせているから自分のツラは嫌いじゃなかった
ようなのだが、冷徹薄情かつ化け物ふうな感じが強烈で、なんとも気色悪い。
どんな人かというと、今で言う商事会社のボスなんやね。オランダでなくベルギ

ーの。ベルギーってもともとそういう面が強かったと聞かされているから、さも

ありなん。

最後に置かれているこの絵が間違いなくこの本の白眉。
この男を除けば、部屋のムードや色彩が似てるなぁと感じたのですが、案の定、
著者が書いていました。フェルメールに影響を与えたんですって。やったね。
 
絵が面白かったのは 5,6,9,12,20
話が面白かったのは 5,6,8,9,15,17,18,19,20
話を知れば、楽しめるのは確かだけど、でも、話は遠からず忘れちまうと思う。
絵はもうちょっと覚えておれる(かな)。
 
始めに書いたように怖いものでなくてもいいから、次も読みたいね。
色んな濃い絵が、おもしろい解説や妄想付きで見れそうだから。
できれば単行本で。文庫本は絵が小さくていけない。

 

(付録1)

上は最近印象に残った絵 ドラローシュ「ナポレオン」(1814)で、調子に

乗って貼り付けてしまいました。この本とは関係ありません。多分有名な絵

ですよね。

ナポレオンというと、誰かの戴冠時のかっこのいい、いたってハンサムな男
の横顔が思い浮かぶが、それとは全く異なる肖像。画家の側の殆ど嫌悪や悪
意すら感じられる。

 

(付録2)

笑いました。

 

(付録3)

よくわかります・・・