休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

「その女アレックス」

20191024(了)
「その女アレックス」/ピエール・ルメートル

  橘 明美;訳
  2014年/翻訳ミステリー/文春文庫//2011仏/中古屋
  <★★★☆>

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何年か前、大絶賛を博した翻訳ミステリー。中古屋でいつ手に入れたの
か、どれくらい積読しているのか、ワカリマセン・・・
2014年の発売かぁ、そんなに前じゃなかったんだ。
今はシリーズものとして読まれているようで、その最新作が新聞にでか
でか載ったもので、まあタイミングですね、思い出して手に取ってみま
した。

フランスはパリ。30歳の看護師アレックスは引っ越し好き。
ずっとやせっぽちで、女性的魅力に欠けていたので、もう恋愛はほとん
ど諦めていたが、最近美しくなったらしいことは自身もわかって、ちょ
っと意識している。
食べることやファッションが好き。体の見え方には注意を怠らなくなっ
た。いつか人生を変える、というのが彼女のライト・モチーフ。
ある時、50がらみの男が付きまとっていることに気づくが、それでも、
自由を謳歌し、ウィッグに嵌り始めたある夜、拉致される。淫売と言わ
れ、暴力を振るわれ、小さい檻に押し込められる。 
ひたすら「Why me?」というのが導入。


この拉致事件をいやいや担当する(本人は仮の担当と考えている)カミ
ーユはできる男らしい。すぐ50歳。なんと身長145cmという、刑事
にしては珍しいに違いない、ドワーフと言っても過言でない異形。
恋女房を誘拐事件で失っていて、誘拐にたいしてはトラウマがある・・・
母を失い、子供もいないまま妻を失い、そして今度父を失う。天涯孤独
になってしまったカミーユの感慨は、
  ・・・もはや、この人生は自分だけのものでしかない。自分が人生
  の唯一の所有者であり、唯一の受益者になってしまったら、つまり
  自分が人生の主役になってしまったら、その人生はもうそれほど面
  白くはない・・・

まいっているのだが、それ自体が陳腐だと感じている。

 

さてさて、カミーユは因縁のある(こっちは巨体らしい)上司に担当を
言い渡されて、仲間と捜査を始めるのだが、まもなく状況がものの見事
に一変する(でんぐり返る!ぐらいのほうがいいかも)・・・
それより前、始めのほうの、彼女が動物のものらしい極端に狭い檻に閉
じ込められて身動きが取れないまま、高い位置に吊り下げられている状
況での描写も、強烈な印象を残しましたねぇ。

この先のことは実際に読まれることをお勧めします。
それも多分、一気呵成に、がいい。

 

おしまいに、この一言多いチビ警部の位の高い方に対する堂々たる(?)
喋りを紹介します。

  「ヴェルーヴェン警部〈カミーユのこと〉」 帰り支度を整えたヴィ
  ダール〈予審判事のこと〉が言った。「今回の事件では、頭の冴え
  が全く見られませんでしたね。何もかも後手に回ったじゃありませ
  んか。被害者の身元さえ、明らかにしたのはあなたでなく女自身だ
  った。ここで終了のゴングが鳴ったからいいようなものの、解決に
  は程遠い状態でした。もしこの幸運な・・・」とヴィダールは部屋
  のほうに首を振った。「“出来事”がなかったら、まだこの事件を担
  当していたかどうか怪しいところです。今回の仕事は、どうやらあ
  なたの・・・」
  「身の丈に合わないものだった?」 相手が言いにくそうなので、カ

  ミーユのほうから言った。「どうぞご遠慮なく、口から出かかって
  いましたよ」

言葉の応酬のし合いはねちねち続きます。小説のエンディングにはまだ
まだページ数がたっぷりある段階のもの。面白いキャラクターです。別

のを読みたくなりました。新作の評価はいかが?

 

(追)
「身の丈」という言葉については、最近、古い省庁の長の、あっけにと
られるひどい使い方がありました。ひどい使い方といっても、実は間違
って使ったわけではない、たんに本音が出ただけと思しい。この省庁に
は絶対にふさわしくない・・・。長い政権ならでは、なんともはや、た

め息つかずにおれない報道でした。(いや、まだ終わってませんね)