休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

ルシア・ベルリン作品集 

20241007(了)

掃除婦のための手き引書

/ルシア・ベルリン岸本佐知子

  A Manual for Cleaning Woman

  /Selected Stories by Lucia Berlin(1936-2004)

 ①エンジェル・コインランドリー店
 ②ドクター H.A.モイニハン
 ③星と聖人
 ④掃除婦のための手き引書
 ⑤わたしの騎手(ジョッキー)
 ⑥最初のデトックス
 ⑦ファントム・ペイン
 ⑧今を楽しめ(カルペ・ディエム)
 ⑨いいと悪い
 ⑩どうにもならない
 ⑪エルパソの電気自動車
 ⑫セックス・アピール
 ⑬ティーエイジ・パンク
 ⑭ステップ
 ⑮バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)
 ⑯マカダム
 ⑰喪の仕事
 ⑱苦しみの殿堂
 ⑲ソー・ロング
 ⑳ママ
 ㉑沈黙
 ㉒さあ土曜日だ
 ㉓あとちょっとだけ
 ㉔巣に帰る
 
  物語こそがすべて  リディア・デイヴィス
  訳者あとがき
 
  2019年/短編小説集/講談社/単行本/中古/ⓒ1977~1990
  <★★★★△>

  カバーは若い時の著者。これでは子どもの頃、背が高かったことも、病気で
  背中が曲がってコルセットをしていた、なんてこともわからない。

 

岸本訳が出て、日本でも相当読まれたよう。

 

近所のプエルトリコ人だらけのアルバカーキのコインランドリーでのことで・・・
  ・・・アーミテージさんは打ちの真上の4Cに住んでいた。ある日店で彼女に
  鍵を渡されて、受け取った。もしもあたしが木曜に来なかったら、それはあ
  たしが死んでるってことだから、わるいけどあんた死体の発見者になってち
  ょうだい、そう彼女は言った。ずいぶんすごい頼みごとだと思った・・・
これでいきなりぎゅーっと掴まれますな。ところが、メインはそうじゃない。そ
の後のいきさつからそのコインランドリーには行かなくなって、町の反対側へ行
くようになったところ、毎回不思議に会うことになるインディアン(アパッチ)の爺
さんとの、誤解から始まると言っていい不思議なコミュニケーション。あっけに
とられてプッ!と笑ってしまう話なんだが、強烈というのではない、奇妙な読後
感が後を引く・・・ (おしまいに挙げた小川さんの惹句に直結)
 
祖母は明日をも知しれない状態。祖父は行儀が悪く、邪険で偏屈なため、嫌われ
ているが、一流の歯科医で客も多く、中でも入れ歯(たぶん総入れ歯)が得意。
ある時から、客を減らし始め、とうとうほとんどいなくなったある時、わたしを

連れ出して医院に行き、バーボンを飲み、わたしの目の前で、自分の歯をべきべ

きバキバキ抜き始める。

と、祖父は途中で気を失ってしまう。わたしは学校(多分小学校だと思うのだが)
の不始末の罰として祖父のところで手伝わされていたので、勝手はある程度分か
り、祖父の残りの歯を抜こうとそこいらじゅう血だらけにして大格闘。祖父は気
が付いてくれるも、動けないんで、母を呼ぶ。(電話したとは書いてなかったな
ぁ) 母が来て、なんとか帰り着く。祖父は祖母の顔を見ることなく自室に入っ

てしまう・・・ 大体そんな話だったかな。結びはわたしと母のミョウチキリン

な会話。

 
移ってきた小学校生の女の子は、3年生を始める。カトリック系の学校なんだけ
れど、違うものを排斥あるいは無視する、しっかりしたいじめがある。この子は
プロテスタント系。しかも脊椎に障害があって、この2点だけでもネタは十分。
問題を正しく吸い上げ理解してあげるべき大人も(親もシスターも神父も)まる
でわかってあげられない。彼女は自分でしんどさを逃れる方法をいろいろ試行す
るんだが、ことごとく潰されてしまう。そんな状況をさらりと切り取っている。
シスターを転がして(ちょっと笑わせられる)退学になるまでを・・・

 

掃除婦として何軒もの裕福な家を掛け持ちしていて、通いのバス、色々なルート。
ルートごとにその家のことや自分のこと、死んだ夫か彼氏のこと、そしてタイト
ルになっている「手引書」のような体裁をとった文章も挟まる。とても実験的な
構成の篇。町はオークランドだ。当時の(70年台だろうか)アメリカのアパーク
ラスの家の感じが伝わってくるのももちろんだが、バスの中での掃除婦仲間の意

外に下世話でないやりとりがついて回まわるのも面白い。⑰とは明らかに関係が

ある。

 

 

載せるのはここまでにします。こんな紹介じゃなーんにもわからないはず。

②にちょっと出てくる母親は、ここではなんにもわからないけれど、例えば⑳で
生々しくめいっぱい開陳されています。母親は、書く動機の中央あたりにいたと

言っていいと思いますね。

ビックリするぐらい鮮やかに情景や人物が立ち上がってくるのです。たいていが

少々ピントのずれたような話なのに、終わるとよーくわかる気がしてくるのがオ
モロイ。人種の違い、奇妙な家族、個性の違い、教育の違い、貧困、そして病的
な(肉体以外にも、今で言うなら知的障害がない自閉スペクトラム症のような
・・・これは自分だけでなく肉親にもあるみたい)性格等々による逼迫・切迫が
間違いなく横たわっていて、わかり合いという尺度では測れないものの、状況そ
のものはものの見事に捕えられ、目の当たりにしている、みたいな。
多くは、アレンジが効いてはいても、自伝の切り売りみたいなところがあるよう。
ただしその切り取り方がものの見事でめっぽう面白い。そして後に行くほど、話
が繋がって来たような気がしましたね。家族の移動や崩壊の歴史なんかもわかっ

てくる。もちろんそっくりそのままじゃない。気がするだけ。でも、この人どん

だけ移動したんや!

時間がかなり自由に行き来するのも特色。次の作品集では、どんな表現でどこに
連れていかれることになるんやろう・・・ って、ほんとは再読が必要だろうと、
理性は告げている気がするけれど、この小説の世界に長居していいものかどうか。
そう感じさせるものもありますな。次(第2作品集)はまだ考えてません。
 
訳者の言葉の選び方や日本語力もすごかったのでしょうが、残念ながらそれにつ
いちゃあ、ワタシには語る能力がありません。
その翻訳者の惹句(あとがきの一部でした)では・・・
 
  このむき出しの言葉、魂から直接つかみとってきたような言葉を、とにかく
  読んで、揺さぶられてください。              岸本佐知子
 
他にも知られた小説家の惹句がいくつも載せられていて、それぞれナルホド。
例えば、
 
  読み終えるのが惜しくて惜しくて、一日一篇だけと自分に課していました。
  いつまでも読み続けていたい一冊です。           小川洋子
 
なんてね。
アメリカの解説者の文章(これは作品集すべてを対象にしたもの)も、翻訳者の
あとがきもすごい褒めよう。
小川さんに習ってワタシは一日に(寝る前に)一篇だけというのを大体守ったも
のの、毎日読んだわけじゃない。掌編も含まれて数が多く、結果、かなり日数が
かかってしまいました。

 

 

(長くなってすみません、ついでだから追加・・・)

リディア・デイヴィスというかたの解説、なかなかリキが入ったもの。その中に
紹介されていた・・・
これは多分第2集のほうに入ってるんやね。
 
   ルームメイトのエラ・・・・・残念ながら彼女とは馬が合いそうにない。
  母親がオクラホマから毎月タンポンを送ってくる。エラは演劇専攻だ。まっ
  たく。これしきの血でおおさわぎするようで、どうしてマクベス夫人を演れ
  るっていうんだろう。
 

色んな比喩も面白かった。「直喩」と書かれている。余人に真似はできない、き

っと。