| 20230415(了) |
『御奉行の頭の火照り
/物書き同心居眠り紋蔵』 佐藤雅美
| (1) 御奉行の頭の火照り |
| (2) お姫様みわ一世一代の大舞台 |
| (3) 手柄の横取り |
| (4) 島帰り勘七への思いやり |
| (5) 勘太の恩返し |
| (6) 十日以内に二人を殺す |
| (7) 御奉行の逆恨み |
| (8)十八年目のうっちゃり |
| 2019年9月/時代小説/講談社文庫/(2015年単行本)/中古 |
| <★★★★> |

| シリーズ、多分14作目。 |
| タイトルになっている一話目がいきなり面白かった。 |
| 金貸し二人を、それぞれ騙して踏み倒す事件が起きる。そのうち一人がつて |
| を頼り紋蔵に助けてもらえないかと言ってくる。もう一つの事件とのかかわ |
| りを疑った紋蔵は、ある手段を授ける。金貸し二人とは別に、前にも出て来 |
| た、役人でもないのに奉行所に我が物顔で出入りするお邪魔虫的な特異なキ |
| ャラが出てきて、手伝うというか足を引っ張るというか、、、にぎやかしに |
| なる。 |
| 二つの事件はミステリーらしく解かれてゆくものの、上記特異なキャラが紋 |
| 蔵から授けられた知恵を、奉行所内でばらしてしまった。そのことから御奉 |
| 行が怒り、最後に紋蔵を窮地に陥れかねない妙なこじれ方をする。紋蔵の上 |
| 司が気付いて機転を利かし、触らぬ神に祟りなし、というスタンスを紋蔵に |
| こっそり含んで、おしまい。(これじゃ面白さは伝わりますまいが・・・ ) |
| 二話目は「お姫様みわ一世一代の大舞台」というが、中身は強請りを生業と |
| する男の話が大半で、強請りのネタがなかなかメンドクサイ。結局それをい |
| かに収めるかで、紋蔵が絡む。紋蔵に対する御奉行の怒りは続く。 |
| 三話目「手柄の横取り」も、この先は何もわからんが、自分の手柄にしたい |
| 御奉行のアブラゲが最後の最後にスルリと逃げてしまう話で、これも面白か |
| った。藤沢の宿で人助けをやってしまった男がわけありで、男の藩の財務が |
| 銀札乱発で引き起こしたパニックを、男の父親が収めるためにとった策のた |
| めに殺され、息子も逃げる時に人を殺してしまっていた。そのことが人助け |
| によって少しばれてしまい、南町奉行が絡む。この絡み方がややこしいとい |
| うか、凝っている。その辺、無理があると感じる向きもあるのかもしれない |
| が、ワタシは楽しかった。 |
| 三人の娘と一話目にも出てきた特異なキャラがレギュラー然として出てくる。 |
| このキャラ(蟋蟀小三郎)がここではやたら人間味を見せる。 |
| 四話目。本巻で初めて紋蔵がナルコレプシーでまどろんでいる表現がある。 |
| さて、ふたたび金貸しの話で、今度は女。夫が島から戻ってくるんだが、そ |
| の前に、女が150両も踏倒され訴え出る。ところがこれが極めて胡散臭い。 |
| 信州のある藩の武士。わかってみれば、ある咎のために「家名断絶」されて |
| 「家財取り上げ以上の闕所という仕置」に当てはまるか否か揉め続ける。 |
|
幕府で政府といえるのは老中、若年寄と、寺社、町、勘定の三奉行で構 |
| 成される評定所一座である。仕事は、財政は勝手掛老中と勝手掛若年寄 |
| が専管するから、司法に関することにかぎられる。ことに評定所一座は |
| 幕末に外交問題を評議したことがあるが、ふだん評議するのは、司法一 |
| 色といってよく、それだけに前例のない特異な事件となると、誰もが注 |
| 目する。四人の寺社奉行、二人の町奉行、二人の勘定奉行、八人全員が |
| こぞって飛びついた」 |
|
あっさり考えると、こういう時は貸主に厳しく借主に手ぬるいのが通例なの |
| だが、解釈を巡って皆熱くなって侃々諤々。特に紋蔵の属する南町奉行は失 |
| 地回復のためにも御奉行がカッカしている。立場は、家名断絶とは言っても |
| 家屋敷は追い出されていないのだから「仕置」は受けていない、請求はでき |
| る、の側。さあどうなる! |
| ところがところが、この踏倒し男、殺されてしまう。訴訟も棄却されそうに |
| なる。そのあと、話は事件でもう一揉めした後、立て直されて大団円。御奉 |
| 行の紋蔵に対する怒り(逆恨み)という通奏低音は、、、お話はまだ4つ残 |
| っているんだが、いったんは下火になる。 |
| 知恵袋としての紋蔵の話が比較的安定した感じで続く。 |
| 第五話は、基本紋蔵の内輪話。女の子たちにもてる文吉と勘太のこと。メイ |
| ンの通奏低音とはかかわりが生じない。紋蔵、めずらしく目頭を熱くする。 |
| 文吉を京都へ追いかける気のちよちゃんは諦めてない・・・ |
| 第六話は、ある女が商家の前で髪を切らせろとごねた際、番頭が彼女をいた |
| ぶる。そんな女の所業が流行る話の裏で、女の恨みを晴らすという形で別の |
| 恨みを晴らすことになった男の話。ちよちゃんの線は続いている。 |
| (西の貢租としてのコメのなどの物産品の商業的扱い方が手広く説明がな |
| されていて、さすが経済に強かった著者の面目躍如・・・) |
| 第七話は、あることないことを書き散らかす「よみ売り」が殺される。3つ |
| ほどの関連ネタが調べられる経緯がリアルで、実にオモロイ。名作かも。 |
| 最終の第八話は、メンドクサイ締めくくり。雑談的に始まる長い引用・・・ |
| 将軍はふだん中奥の御座之間にいて政務をとる。 「伺いの通りたるべし」 |
| 「いま一度とくと考えよ」などと伺いに応答するのだが、それらにさして |
|
時間をとられるわけではなく、おおむね暇にしている。そこであれこれ暇 潰しをする。 |
| 三代目将軍家光は日光東照宮に父の二代将軍秀忠との同行の二度を合わ |
|
せて十度も出かけた。京へは秀忠と二度、単独で一度と三度も出かけてい る。 |
| 五代将軍綱吉は金がないから京はおろか日光にもでかけられなかったの |
| だが、かわりにお気に入りの重臣柳沢吉保の屋敷に実に五十八度も出かけ |
| た。他にもやはりお気に入りの重臣牧野成貞の屋敷に三十二度、側用人松 |
| 平輝貞の屋敷をも頻繁に訪れた。 |
| 八大将軍吉宗は財政再建に、法整備にと政務に没頭したが、十一代将軍 |
| 家斉は大奥の女に目を向けた。手をつけた女はほぼ四十人。正室も含めて |
| 十七人から子女を五十四人ももうけている。 |
| ただ、家斉もこの年天保三年で六十歳。オットセイ将軍といわれたさし |
| もの絶倫男も五年前に生まれた五十四子の泰姫を最後に、子は打ち止めに |
| なっている。それだけにといっていい、ここ数年はやたら暇を持て余すよ |
| うになり、この日、 |
|
「どうだろう、出羽」 |
| とお気に入りの老職水野出羽守忠成に話を持ち掛けた。水野は応じる。 |
| 「なにがでございましょう」 |
| 「退屈しのぎにまた吹上上聴をやろうと思うのだが、どうだろう」 |
| 水野はなんであれ、家斉に逆らったことが無い。答えていった。 |
| 「結構でございますなあ」 |
| 御城の奥に吹上という広い庭があり、そこに仮の桟敷と御白洲をもうけ |
| て、寺社、町、勘定も三奉行所八奉行が実地にお裁きをして見せ、将軍や |
| 将軍世子が傍聴するのを公事上聴、ないしは吹上上聴といった。数年前に |
| もおこなわれて、当時、紋蔵は定廻りを拝命していてさる事件を扱ってお |
| り、御奉行はその事件を吹上上聴に持ち出して見事な裁きをつけ、大いに |
| 面目をほどこした・・・ |
| 家斉が気まぐれに言い出した「上聴」は、しくじり続きの南町の御奉行にと |
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っては、夢よもう一度、面目を一新できる千載一遇のチャンスと部下の尻を 叩く。ちょうどいいネタを探せ!というわけだ。 |
| その前に一つややこしい正妻と妾の複雑怪奇な財産相続の問題が転がってい |
| て、担当与力が逃げ、それではと、南町奉行ご本人が(普通はそんな直接の |
| 詮議なんてしないのに)小手調べとばかりに詮議に臨むが、御奉行がさすが |
| がの年季、なんとこれを見事に裁いてしまう。 |
| で、それではと選んだ本命の中身というのは奇妙な離縁話で、紋蔵も外野な |
| んだが絡んで、さてさて御奉行の首尾や如何・・・ 幕閣にも慧眼な方がい |
|
らっしゃって、もうひとひねり加えた結末がいい余韻である。(紋蔵にとっ ても) |
| 長くなりました。楽しんだと思ってもらえれば幸い。 |
| あと一冊で当シリーズもおしまいのはずです。 |
| 時代物は、そんなにいろいろ読む気はありません。 |