(カバー紹介文) 八丁堀小町と呼ばれているちよは、料理茶屋・観潮亭の |
看板娘として評判を得ていたが、抜群の三味線の腕を持つみわに看板 |
娘の座を取って代わられる。さらに、みわの出生の秘密に負けん気を起 |
こしたちよが「あたいは公方様のお姫様かもしれない」と思い込み・・・。 |
表題作他全8編収録の人気捕物帖第11弾。 |
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上記惹句は(8)の分。 |
長ーいあいだに、文庫ももう11冊目になるんやね。単行本で読んだこと |
もあった。勿論中古だけど。(本はこの先へあと2冊くらい出ているのか |
な。) |
本冊での紋蔵さんは、ほとんどナルコレプシーを見せず、後継ぎが心配 |
な中年の目立たないお役人。白髪がだいぶん目立ってきていそう。 |
といっても、上役からは絶大な信用を得て、無理難題を仰せつかる。頭 |
脳は相変わらず冴えわたっている。 |
いつもだとところどころにある時代考証による歴史的な裏付けといった |
佐藤さんの大きな魅力の部分は、あるんだけれど今回はこれも目立た |
ず、ストーリーテリングのほうに注意が向いている感じ。 |
内容をひとことで要約すると、 |
器量よしの娘と、三味線の名手の娘、ふたりの看板娘の自負心が引 |
き起こす厄介事に、周囲の大人はてんてこまい! |
「みわ」と「ちよ」のことで、この第11弾は、確かにこの二人が出てきて物 |
語を引っ掻き回す形になっている。今までこういうスタイルってなかったよ |
うな気がする。短編集に「連作」をつけてもいい。(ついていたかも) |
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ワタシが面白かったのは・・・ |
三味線が上手な《みわ》に生みの親が現れるのと、渡し守の値上げの話 |
が絡んでくる(3)
日本橋川の鎧の渡しの渡し守が値上げを認めてほしいと言ってく |
る。そのわけは、ただ乗りする特権者が多いこと。役人やそれに |
類する者たち、神職、僧侶、山伏、医師。それに顔役やチンピラも |
図に乗ってタダ乗り。これでは渡し守が立ち行かないという。この |
問題に紋蔵はまず絡むが、もう一つの話があって、親に捨てられ |
た「みわ」のこと。まだ12、13歳。非常にかわいく三味線が玄人は |
だしで、アーティスト志望。ところが彼女を育てている男が問題を |
抱える絵師で、本意ではなく金のためにエロな絵を描いて牢に入 |
っている。そこへ生みの親というのが現われ、男は彼女の幸せの |
ためだと彼女を突き放そうとする。が、彼女は生みの親なんぞに |
興味はなく、‘おとっつぁん’と三味線があればいい。そこに始め |
の渡し守業界(のある昼行燈ふうな男)が絡んでくる。 |
話は二転三転。
「・・・これがうまく収まるってんだから、さぁお立合いぃ」 |
パンパン!なんてね、瓦版売りみたいだけどさ、よくもまあ話が |
収斂した。
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不忍池の池畔で起きた刃傷事件が、紋蔵の仇敵の横槍のためにとんで |
もなく錯綜してしまうミステリーの(6) |
松平伊豆守家来新井甚右衛門が、不忍池の池畔で賊に襲われ、 |
反撃して逆に殺してしまった、という一見単純そうな話が、もつれ |
にもつれるミステリー。 |
紋蔵は最後の切り札的に出てきてうまく収めるのだが、そこまで |
は紋蔵以外のレギュラーたちが頭を抱える。もつれの大きな原因 |
は、一度干された奉行所役人黒川清右衛門という、手柄を立てた |
くてしょうがない癖のある御仁が再登板をはたし、結果捜査がこん |
がらがってきてしまったからだ。この黒川という役人は結論ありき |
の三文ドラマでよくある捜査手法。ほとんど違法で強引な手法を |
取る。そのため、かつて紋蔵も窮地に陥ったという因縁がある。 |
上役たちはそんなことを承知しておきながら、嫌がる紋蔵に高飛 |
車に無理やりなすりつけるように頼んで解決を図ろうとする・・・ |
ミステリーのこんがらがりようや、解きほぐすまでの色々が紋蔵 |
ならではで面白い。
このあたりかな。
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カバー紹介文は(8)で、まあ今回の連作の仕上げ的お話。プフッと笑わ |
せての大団円。
最初の文庫本のカバーがこれ。村上豊という画家の絵で、今も |
変わらない。文庫の初版は1997年9月、単行本は1994年12月 |
とあります。20年ほどのおつきあいということになりますね。 |
最初の文庫のカバーの惹句に、すでに南町奉行所で30年内勤 |
をしているとあるから、そのまま時間が進んでいるとするならば、 |
今ならとうに隠居してしまっているだろうに、新聞の4コマ漫画の |
キャラほど時間は止まらないものの、時間はゆっくりとしか進ん |
でいない。居眠り中の紋蔵さん、今もこの感じ。 |
‘勤務中でも居眠りをする奇病’(ナルコレプシー)だ。カバーの |
絵は今では完全にセットやね。 |
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