| 20240609(読了) |
市川沙央『ハンチバック』
| 2023年9月/小説/第169回令和5年上半期芥川賞受賞作/文藝春秋 |
| <★★★☆> |

| 安くなった文藝春秋を、この作品を読むだけのために買っておいたもの。 |
| 著者が身障者であること以外に内容はほとんど知らずに読み始めたました。 |
| 新聞で若干の紹介が出ていたものの、ちゃんと読みもせず、こりゃあきつー |
| い一発かもしれんなぁと予測はしていました。 |
| はたしてその通りでした。頬っぺたを派手にはり飛ばされたみたいな感じ。 |
| ハンチバック(せむし)の女子大生(たぶん少々歳はいっている)。親は亡 |
| くなっていて、介護施設や資産を相続している。自身はハンチバックという |
| 以上のひどい障害があって、厚く介護される身でもある。 |
| 若干偏った感じもあるが、介護や関連医学、文学、下世話な物事にもAIに |
| も通じ、教養は猛烈にあるんだが、ひねくれた精神や、例えば逆差別のよう |
| な考え方に支配されている部分も少なくない。もちろん優しさや繊細さもあ |
| るものの、そんなものは頭の中で言わば「裏返って」いる。 |
| ワタシ、障害者だけど、なんか文句ある?!とでもいうようなケツまくりの |
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ニュアンス、あるいはオーラを発散しているかのよう。(あくまで「かのよ う」) |
| おりしも、コロナが猛威を振るっている。そのせいもちったぁあるかもしれ |
| ないが、とにかく切羽詰まった精神のバランスをとるために、あるいは生を |
| 感じるために、エロの文章を「再構成」(「こたつ記事」などと言うのね) |
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して投稿、あるいはつぶやく。学生生活はオンライン。事業の運営は人任せ。 金には困らない。 |
| 障害の状態やその関連の痰の吸引や呼吸のことなどは、さすがにとかいうレ |
| ベルでなく、異常にリアル。しかし、リアル至極だけれど、下手な感情移入 |
| や同情をしてもらう気はらさらない、というスタンスなんですね。 |
| 健常者にできて自分にできないことは山ほどあるわけだが、目下の関心事と |
| いうか強い望みは、 |
| <普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です> |
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いろいろ体力的に問題はある(≒命の危険に直結する)が、そこまでならで きるんじゃないか・・・ |
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聖書のエゼキエル書が引用されます。(「その」世界にも入ってみたことが あるということなんでしょう) ワタシには意味不明でした。 |
| まやかしのエロ文を書いたそのつづきとして、健常者と障害者とのパラレル |
| な関係をまじめに論じる。しかし、両者が生じる摩擦を実は経験していない、 |
| する必要がないまま来てしまったと、半ば悔やむ。その後考察は進み、以下 |
| のような人とは違うであろう自身の認識を思う。 |
| ・・・だが私なりにモナ・リザを汚したくなる理由はある。博物館や図 |
| 書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこ |
| にずっとある古いものが嫌いだ。壊れずに残って古びていくことに価値 |
| のあるものたちが嫌いなのだ。 |
| 生きれば生きるほど私の身体はいびつに壊れていく。死に向かって壊 |
| れるのではない。生きるために壊れる。生き抜いた時間の証として破壊 |
| されていく。そこが健常者のかかる重い死病とは決定的に違うし、多少 |
| の時間差があるだけで皆一様に同じ壊れ方をしていく健常者の老化とも |
| 違う。 |
| 紙の本に関する認識なんか面白かった・・・ いや、このぐらいにしておき |
| ます。普段頭の中で転がしてみたこともない新しい言葉や専門用語がボンボ |
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ン出てきて意味がとれないので、はじめは何度もパソコンを覗くことになり ました。 |
| 中身の印象としては、いささかならず鼻持ちならないのですが、おそらくそ |
| う感じさせるような意図も含ませて書いておられるんだと思う。文章自体は、 |
| 堅い言葉も含まれるものの、いたって普通だったですね。 |
| ご本人は、最近の芥川賞の様々な傾向を研究し、受賞を目標において書いた |
| んだとはっきり述べておられる。障害者の感性的な状態のものを、ちゃんと |
| 理屈として掬いあげ得ているよう、冷静に構想されたものなんだね。すごい。 |
| 一方、こういう内容(踏み絵っぽい、あるいはエゲツナイ)の小説を目の前 |
| に提示された選者たちも、臆せずに論評しなきゃならないんで、けっこう大 |
| 変だったんじゃないかと想像します。案外そうでもないのかしらん。(でも、 |
| 頭のいい障害者、なんて書き方できんでしょうし・・・) |