20190308(了) |
『百年泥』/石井遊佳 |
小説/文藝春秋・三月特別号/第158回 芥川賞発表 |
(2018年3月1日発行) |
<★★★☆> |
芥川賞2作をいっぺんに読めるというスケベエ根性で手に入れておいた雑誌 |
です。思ったとおりなかなか読めませんで・・・ なんか浅はかですねぇ・・・ |
ヘンテコリンな小説です。いかにも芥川賞対象。
エンタテイメント性は結構あったと思います。
|
わけありで、日本を出たほうがよくなった女が、インドに‘落ちて’行く。 |
インドから日本へ働きに行く企業戦士の卵に、日本語を教える教師として赴 |
任するんだが、インドってなんやわけのわからん国で・・・というお話。お話だ |
けれど、ストーリーというほどのものはない。 |
この仏頂面の女 (そうは書いてないけどそういう感じだよ)が教える日本語 |
教室の面々のことが中心といえば中心。 |
まだこの女教師(本当は教師の資格はない)にとってインドに来てそう月日 |
もたっていないのだが、おりしも百年に一度というような洪水が押し寄せた。 |
町のかなりが泥んこ。 |
このチェンナイというどでかい町は、ワタシタチがマドラスという名で習った町 |
なのね。(知らんで、そんなん・・・) |
で、インドのことが――摩訶不思議なことが――ぞろぞろと出てくる。 |
空を飛ぶ企業マンがいたり、古い古い泥の中からいろんなもの――例えば百 |
年前のもの――が(死んでおらずに生きて)出てきたりする。そういうありえな |
いようなものをこの女教師は、ほとんどシラーっと見るだけで、あまり感興を伴 |
わないよう。 ん?そうでもないの? 読んでいるほうは面白い。 |
そして、生徒の中でも飛び切り頭も勘もいい、邪魔にも助けにもなる男のとん |
でもない家族史を聞く(知る)うちに、この女は、なにやらインドという混沌に飲 |
み込まれていく(≒馴染む≠同化する)というような具合になるのね。 |
まったくもって章に分かれていなくて、はじめっから最後まで、だらだらと文章 |
が続く。ついに一行も空けられないまま終わってしまった。 |
でも中身のほうはコロコロ変わっていく。短い話も長い話も分け隔てなしで、 |
次から次へと出てくる。文章一つ一つが変わってるというんじゃなくて、中身の |
一つ一つのヘンテコリンさだとか、話ごとのギャップが奇妙な雰囲気を醸す。 |
このちょっと投げやりな感じの日本語教師の目で肌で、確かにインドを見、感 |
じているんだけれど、この教師よりはかなり教養のある人格が、もう一人その |
すぐ奥にいるなぁ(つまり書き手)という感覚を持った。 |
それがいいとか悪いとかっつうようなことじゃないものの、その図式には、けっ |
こう好き嫌いが伴うんじゃないかと思う。インドのことを勉強できたものの、ワタ |
シとしてはちょっと居心地の悪さを覚えました。 |
ワタシの感覚なんぞ取るに足りないもので、賞は、この文章のリズムの面白さ |
や中身の特異さ目新しさが評価に値したと考えられたからなんでしょう。 |