休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

村田沙耶香『コンビニ人間』

人は食べたものでできている、という言い草に似ている

20200214(了)
村田沙耶香コンビニ人間

  2016年/文藝春秋/単行本/中古
  <★★★★>

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この女性は、いわば発達障害、あるいは自閉症の一種なんだろうか。
場の空気や人の感情を読んだり、忖度というような反応をするのが非
常に難しいのだから。
他人と違うことを認識するのが遅く、そのこと自体を徐々にだが認識
し始められるようになりつつ成長した。
普通の意味での学力は人並みで大学まで出ているが、なんで長くバイ
トをやっているかちゃんと喋ることができないため、就職は叶わず。
結局そのコンビニに18年(!)だかもい続けることになる。
夜な夜な不安なのだが、
  朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのこ
  とだけが、私を正常な人間にしている・・・
食べ物や飲み物はたいていそのコンビニのものなので、自分の身体の
ほとんどが、いわばコンビニでできている。店の備品みたいなもんだ
とも思っている。
だが、なにが普通なのかは正直なところよくわからない。ただそれほ
ど長くいるために、自分の前を通り過ぎて行った店員が何人もおり、
中のまともに思えた人のまねを次々に工夫することで「普通」を演出
し続けている。持ち物、服、表情、喋り方等々。
そういったことがうまくできれば、「上手に『人間』ができている」
と安堵し、生きているという満足感が生まれる・・・

 

彼女はコンビニに入れあげて勤勉なので、店長にとっては得難い存在
であり、本人に言わせれば店の「良い部品」。
まあこういうようなことが、出だしでわかってきます。
店の運営上のいろいろだとか、店とは関係ない人とのコミュニケーシ
ョンだとか、こういう人間だからこそいつか明らかにしなきゃならな
い男女間のことなんかが、その先にあるのでしょう・・・
ときどき、ドキッとする言葉が彼女から発せられるのが、こっちの頭
にこびりつきます・・・
頭の中そのもののような、平易な言葉!

 

読了後、妙に納得してしまいましたね。やっぱり、すぐそこにある世
界の、こんなほとんど強引に彫琢し直した切り出し方!
類似の話を読んだか観たかしたような気はしますが、わかりません。
始めに書いた言葉、発達障害自閉症などが、途中で浮いてしまうよ
うな気がしないでもなかったのですが、読み終わった後は、なくして
しまうこともないと思いなおしました。人類ひとりひとりはだれしも
そういう発育不全を千差万別のレベルで持っているもんでしょうし。
ある種ニュートラルなギアに入ったままの人間といった見方も可能な
のかな。そして、痩せて背が高く、いじけて怠惰な皮肉屋である男の
存在が、狂言回しというか、ポイントというか、利きました。

これだけ有名になってしまった小説なんで、たぶん読むことはないと
思ってましたが、ひょんなことから手に取りました。アップするのは
けっこう恥ずかしい・・・、いくらでも深読みできそうだもの。あと
で、その手を紹介しましょう。でもまあ、ワタシなりに理解できた気
にはなれたし面白かった。これならワタクシメにはエンタテインメン

トです。
芥川賞を獲った一発屋どころでなく、なかなか手練れな書き手のよう。
もういろんな国に翻訳もされて反響を呼んでいる。いわく、世界共通
語のような世界だとか、哲学的命題の提供だとか。さまざまな学問の
研究者すらもおおいに刺激しているよし。映画作家たちをも多分。
映像化は割と容易かもしれないが、受けるものにできるかどうか・・・

 

朝日新聞の2/18のコラムに、
 パブリックエディターから/新聞と読者の間で
 多様性 ゼロから考えた//河野通和
というのがあって、この中で、正月を挟んで「多様性ってなんだ」と
題した6回のシリーズのことを取り上げている。
中で、ワタシも面白くて切り取ってファイリングまでしてしまった二
つ、福岡伸一ブレイディみかこさんの対談と、村田沙耶香さんの寄
稿を、この著者も面白いと思ったらしい。
この小説にも触れたところがあるので、そのあたりを貼り付けて、お
しまいにしたいと思います。
多様性の切り口とは少々異なります。

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(ああ、メンドクサイ!という気分です。それがワタシの年齢だとか、

 疲れ方だとか、関心の持ち方だとかの顕れなのかもしれません)