| 20231022(了) |
ロシアは今日も荒れ模様/米原万理
| 第一章 酒を飲むにもほどがある |
| 第二章 反アルコール・キャンペーンの顚末 |
| 第三章 その前夜 |
| 第四章 連邦壊れてまだ日の浅ければ |
| 第五章 肖像画コレクション |
| 第六章 ロシア人との交渉術 |
| エピローグ――日本海を挟んでボケどうしの漫才 |
| あとがき |
| 1998年/エッセイ/日本経済新聞社(単行本) |
| <★★★★☆> |

| この方の本はいくつか読んで、皆おもしろかった。 |
| プーチンさんに関する理解が少しでも進むなら、なんて甘いことを考えて、つい |
| 手に取ってしまったのが間違いで、ロシア人のキャラや小話などが不謹慎なまで |
| に面白く、その気はなかったのに、あっさり一冊再読してしまった。 |
| まだここにはプーチンのプの字も出て来ません。ソ連からロシアに変わるところ、 |
| 宰相がゴルバチョフからエリツィンの終りにかけてというあたり。 |
| ホントは各章の中の見出しに当たるタイトルを載せると、わかりやすいだろうと |
| は思ったものの、面倒だったんでパス・・・ |
| 第一章、第二章ではげらげら笑ってしまったが、第五章のエリツィンさんをめぐ |
| る描写のリアルさ(通訳としての経験からとはいえ、あまりの生々しさ!)に舌 |
| を巻き、ここまでじゃヒントが見つからないぞと気にしいしい読むことになりま |
| した。まあ、おしまいのほうに、こんなのはどうだろうというところがあったの |
| で、引っ張り出してみました。こっちはパスしちゃまずいか、と。一つ目は・・・ |
| ・・・両者の決定的な違いは、ゴルバチョフにはエリツィンがいたが、エリツ |
| ィンにはそれがまだいないことである。 |
| もっともクレムリンには、その主を似通わせる魔力があるに違いない。権力と |
| いう、持った途端にそれを維持することが至上命題となり、どんな優れた人徳 |
| 者をもそのためなら卑劣で残忍な亡者にする恐ろしい魔力である。人類は幾多 |
| の悲劇と誤りを経て、いくつかの国々ではその被害をなるべく小規模にとどめ |
| るべく権力者を早めに交代させるシステムとか、権力者の横暴に枠をはめる機 |
| 構を作るようになった。複数政党制にもとづく議会制度やいくつかの国々にお |
| ける大統領三選禁止など、そのいい例である。ロシアに今求められているのは、 |
| ヤロシェンコやボシャーノフが夢見たエリツィンに代わる若く優秀な多数の人 |
| 材と、その時々の指導者の素質に、過度に左右されない制度作りかもしれない |
| (ロシアにも大統領三選禁止条項があるが、大統領の議会に対する優位がはな |
| はだしく、いつでも撤廃できる危うさがある)・・・ (第五章から) |
| これを選んだのは、大統領の権限をエリツィン自身が強くし過ぎたという失策が |
| 絡んでいるのですね。もろプーチンを利することに繋がった。 |
| 二つ目に選んだのは・・・ |
| ・・・ところが、冷戦関係が溶解して、アメリカが敵対国でなくなった、とい |
| うよりも、世界最強の単独超大国になった今、ロシアは、否が応でも、アメリ |
| カにすり寄って生きていかなくてはならない。内心忸怩たるものがある。かつ |
| て覇を競い合った国の誇りと体面を汚されて屈辱感をなめている。アメリカは |
| その辺の屈託について、ノー天気なほど無神経だから、旧ソ連地域で何かキナ |
| 臭い問題が起こる度に、国務長官がわがもの顔してヘリコプターで現地入りす |
| る。それをテレビ画面で見せつけられながら、どれほど多くのロシア人が悔し |
| 涙を流していることか。 |
| そんなロシアにとって、格好の憂さ晴らしの対象となっているのが、日本な |
| のではないか。日本はアメリカの従属的なパートナーである。ロシアから見る |
| 限り、いやきっと他の国々から眺める限り、ほとんど植民地に見える。国連は |
| じめ様々な国際会議で、日本ほどアメリカの意向に可哀そうなくらい忠実な国 |
| はない。アメリカに頭を下げていかねばならない自分の一番認めたくない部分 |
| を、異常に拡大した形で日本が体現している。いやでいやで仕方がない。その |
| 日本が、アメリカに対しては、原爆投下についてでさえ謝罪を求めないのに、 |
| 戦後の日本人捕虜の虐待についてソ連には謝罪を求めてくる。臆面もなく「弱 |
| きをくじき強きを助ける」日本をもてあそびたくなる。虐めたくなる。アメリ |
| カの心証さえ良くしておけば、日本はどうにでもなる。そんな風に、日本をか |
|
なりなめてかかっていることだけは確かな気がする・・・ (これも第五章から) |
| この感想文の主旨(?)からは脱線気味ですが、あくまでこの時代の関係性から |
|
のもの。何も変わっちゃいないという見方もあるでしょう。 三つ目は・・・ |
| ・・・泥沼化の一途を突き進むチェチェン紛争にエリツィンは打つ手なしの感 |
| があるが(95年当時)、帝政時代からロシアはこのコーカサス地域に手を焼 |
| いてきた。東側から黒海、西側からカスピ海に挟まれたコーカサス山脈を中心 |
| とする地域。このあたり一帯は歴史的に民族運動の交差点でもあったから、民 |
| 族と宗教の博物館といわれるほど多数の民族が複雑に入り組んだ形で居住して |
| いる。ソビエト時代に入ってから、スターリンは民族政策の名のもとに極東の |
| 朝鮮人、クリミヤのタタール人、北コーカサスのチェチェン人をカザフに、リ |
| トアニア人をシベリアに、ユダヤ人を極東にという具合に、まるで将棋のコマ |
| でも動かすようにいくつもの民族全体を一夜のうちに強制移住させるという愚 |
| かで残酷な暴挙を重ねた。「諸民族の牢獄」といわれた帝政ロシアの国土を引 |
| き継いだソビエト体制は、さらに民族問題を複雑化してしまったことになる。 |
| それでも全体主義的強権が幅を利かせていた時期は、何とか「諸民族の友好」 |
| という表看板を維持してきた。ソビエト帝国のほころびが目立ち始めたのは、 |
| ゴルバチョフがペレストロイカ路線を打ち出し、強権のタガが緩み始めてから |
| だろう・・・ (第六章から) |
| ゴルビーさんが悪かったとは言えないわけだけれど、でも結果的にはそう。 |
| 最後はこんなところを選んでみました・・・ |
| ・・・さらには、もう一つ、重油流出という大惨事関連ニュースの陰で霞ん |
| でしまったが、最近ロシアにとって今後の岐路を決するほど重大なプロセス |
| が進行しているのである。 |
| NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大の具体化、すなわちかつて衛星国 |
| や同盟国であった東欧およびバルト諸国の取り込みに対して、ロシアは警戒 |
| 心を強め、一連の対抗処置を取りはじめている。ロシア主導の勢力圏確保の |
| ために、CIS諸国の軍事ブロック強化をはかろうとする動きもあれば、九 |
| 五年末の李鵬中国首相のモスクワ訪問の際に交わされた共同コミュニケでは、 |
| 両国が政治的、経済的、軍事的に協力を強め、「戦略的パートナーシップ」 |
| を築いてゆくとうたっている・・・ (エピローグから) |
| エリツィン政権の最後のころの奇妙とも言える大混乱を、さすが通訳としてへば |
| りついておられただけのことはあって、幾つかの章で事細かに述べておられるこ |
| とについては、なんというか、ほとんど茫然としてしまいました。(なさけない |
| ことに、全く忘れてしまっていましたけどね。まぁそんなもんです。人生なんて |
| ものは、長ーい忘却のリストをたなびかせて続く・・・ おっとっと、言い訳 |
| ・脱線)。また、エッセイをまとめるにあたって少し後で書かれたものに違いな |
| い「エピローグ」のなかの文章。続き具合がわからないでしょうが・・・ 事ここ |
| に至ると、もはやそのものずばり。現在のロシアの立ち位置に関することを、米 |
| 原さん、ほぼ言い当てておられた。 |
| 米原さんはこの本の時点では、プーチンの大統領一期目のことすらまだご存じな |
| い。また、彼女が死の床にある時にだって、三期目プーチンがクリミヤを強引に |
| 併合するなんて事態も起きていない。 |
| 変なロシア人をネタに笑いを取ってみたい気持なんか消えてしまいました。 |
| 健筆をふるっておられれば、現状を何と書かれることになったか、知りたいと思 |
| わずにはいられませんでした。(やっぱりねぇ、ロシアはロシアよねぇ、でおし |
| まいかもなぁ) |