9/6(日) 朝日新聞読書欄から、小さい紹介記事二つ
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紹介(1) |
■私の恋人 上田岳弘〈著〉 新潮社・1296円 |
ミクロとマクロの二重螺旋 |
近年、科学的分析技術の向上により、なぜ現生人類が生き延び、ネ |
アンデルタール人が滅びたのか、人類はどのように拡散し、交雑した |
のかが明らかになってきた。ここ数万年間には、気候の変動や破局的 |
な火山噴火、飢饉や部族間戦争があり、淘汰が繰り返されてきた。人 |
類史は種としての人類の営みを考察するが、人類史の末端にいる私 |
たちは個の営みに一喜一憂している。宇宙や人類史のマクロ的視点 |
に立てば、ヒトは自ずと気宇壮大になるが、我に返れば、金銭のトラ |
ブルや人間関係のもつれなどせこい現実が待っている。 しょせん、 |
自分はDNAに宿を貸しているだけで、繁栄するにせよ、滅亡するにせ |
よ、天命に従うだけだと達観するのが関の山である。上田岳弘はか |
つてシャーマンや詩人がそうしたように、自身が受け継いだDNAを語 |
り手にして、淘汰の無常をぼやきつつ、恋人に尽くすのである。折々 |
の自画像はミクロとマクロ、主観と客観が二重螺旋をなしている。 |
| (1)さーて、この本のジャンルは何だろう。 |
小説のような気もするが、確信はない。著者名、有名かもしれないが知ら
ない。でも多分小説。
| 紹介者の立ち位置、立ち方を、やけにくっきり示しているようではあるし、 | とてもよくわかる(≒共感している)ものの、ちょっとズッコイんとちゃうか? | と思う。 | まあたまにはこういう当たり前の理屈に持っていかないと、紹介者として | も、、、どこか精神衛生上ガス抜きができない(ワタシはしょっちゅう!)の |
ではないか、とも。
紹介(2) | ■いないも同然だった男 パトリス・ルコント〈著〉 春風社・1944円 | 地味で平凡、誰にも嫌われず、でも好かれない。そんな男が恋を | した。 | あこがれの美女の気を引くために、男は奇策に打って出る。泳いで | 英仏海峡を渡ってみせれば、彼女もあっと言うだろう。 | ばかばかしくて、非現実的な物語だ。でも、読者は気づくだろう。男 | の途方もない挑戦が、世の孤独な人々が歯をくいしばって歩む人生と | 重なることに。泳ぎながら男が流す涙が、誰もが感じたことのある、社 | 会の理不尽さへの怒りと似ていることに。 | 著者は「仕立て屋の恋」「髪結いの亭主」で知られるフランス映画監 | 督。まさに映画のシーンのように印象的な最後の場面は、やさしく、 |
(2)紹介者不明。 | これだけでまさにルコントの映画を観るかのよう。 | 『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』ではちょっと古いだろうという気もするも | のの、この2作品なんて、ちょっと忘れるのが難しいくらい、記憶に刻まれ | てしまっている。その世界を彷彿する内容だと思うので、だからこそだろう | けれど、映画を観ているみたいだと感じる。紹介者を書いていないので、 | 多分記者なんだろう。ちょっと年を食ってそうな、でなきゃかなり映画好き | なかただろうかね。 | | - - - | この二つとも妙に印象に残ったので書き写した。 | どちらも大作じゃない。 | 面白がってしまうワタクシメ自身の、どこかタガが緩んでいるような気がす | る。 |
大朝日の書評欄ですから、写すなんて無益なことなんですが、ついつい
勢いで。
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