休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

梨木香歩/小説「沼地のある森を抜けて」

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20140514(了)
梨木香歩/小説「沼地のある森を抜けて」
 1、フリオのために
 2、カッサンドラの瞳
 3、かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話 Ⅰ
 4、風の由来
 5、時子叔母の日記
 6、かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話 Ⅱ
 7、ペリカンを探す人たち
 8、安世文書
 9、かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話 Ⅲ
 10、沼地のある森
   2005年/小説/単行本/新潮社/中古
   <★★★☆>

<内容> はじまりは、「ぬか床」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ―
「ぬか床」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地
へと進み入る。そこで何が起きたのか。濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄
生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。光のように
生まれ来る、すべての命に仕込まれた可能性への夢。連綿と続く命の繋がり
を伝える長編小説。
3章・6章・9章に挟まっている「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」
というのが、難物でした。これがワカランと言ったら笑われてしまいそうだけど
、、、この破天荒なストーリーの根本にかかわっているようなのに、なかなか
捉えきれないまま読了。
捉えきれないと言えば、そもそも“ぬか床”とか‘変形菌’やもんねえ。
この本読み始めてすぐ、いくつかのキーワードみたいなものとしてメモをした
のだけれど、真っ先に書きつけたのが、無性生殖なんて言葉が出て来るの
に(いや、だからかもしれないが)女性性独特の感性の匂いがすることを嗅ぎ
付けたように思ったこと。ひょっとしたらトンチンカンかもしれないし、案外解題
の手掛りなのかも、と。
結果は、微妙、微妙。ハハハ。
ストーリーは思いのほか壮大で、仕事を持った普通の女性が、一族の過去
や歴史を紐解く運命的道行に至る。ヘンな‘男’と一緒に。全編そこかしこで
もって、哲学論議に向いたネタをばらばらとブン撒きながら、結局は哲学論
議というよりはむしろ、なにやら阿吽に近い感覚で議論や思索を止めること
を続けていくうちに、なにやら収斂してゆく先がおぼろげに見えてくる。
そして驚愕の真実が!!! なんてね、そう言ってもいいが、とうから見えてる。
これは一族のレベルを超え、‘いのち’というものの捉え方に関する、ある方
向性を持った思索のストーリーという言い方もできそう。
子供のファンタジーの世界からは大分格上げされた、大人向きのもので、何
やら深いものとつながっていそうな、でもそれほど切実でもなく逼迫もしてい
ないような、奇妙な気にさせる凝って風変わりな(ワタシには、ですが)話。
しばらくは、ぬか床(その家系独自の次元の裂け目みたいなもんらしい)を一
日に2度だったか必ずこね回さなくちゃいかんとか、そこからヘンなものが生
まれ、人格を持ったそれを無視もできずに付き合ったり話をしたりとか、変形
菌がどんどん成長してでかくなってネコでも飼うようにその辺をうごめきまわ
るのをほったらかすとか、まあおたおたした話が続くのに、徐々に、地球で
一番最初にできた細胞というものに思いをいたし、その絶望的孤独を感じて
あげようというようなことにまで広がっていくんだもの。でね、ワタシには(繰
り返しだけど)それはどちらかというと植物寄りで・・・しかもやっぱり女性性
からのイマジネーションだろうと。
こんな‘世界’の切り取り方もあるよという‘梨木ワールド’。
堂々たるファンタジー
柳田国男とか宮本常一でしたっけ、ああいう民俗学に分け入ってしまいそ
うな感覚も持ちました。このへんとファンタジーはまあ当然ながら親戚筋な
んでしょう。
新聞の書評欄のCHKから10年近くもたって、読むのは「西の魔女が死んだ
「裏庭」以来の梨木香歩作品になりました。(アホな感想文にもなりましたナ。)