休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

中島京子『長いお別れ』

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20190504(了)
中島京子『長いお別れ』

  全地球測位システム
  私の心はサンフランシスコに
  おうちに帰ろう
  フレンズ
  つながらないものたち
  入れ歯をめぐる冒険
  うつぶせ
  QOL(クオリティ・オブ・ライフ)
   解説 川本三郎
  2018年3月/小説/文春文庫/中古
  <★★★★>

かつては中学校の校長を務め、退官後は図書館館長という名誉職も
いただいた名士東昇平が、同窓会に出かけて目的を失い、悄然と自宅
に帰ってくる。それが認知症の最もはっきりした発端で、亡くなるまでの
10年間のお話。
奥さんによる老々介護。娘が三人。
みな同居しておらず、それぞれの事情があるのは当然。でも基本的に
全員優しい。
奥さんと娘さんたちの視線で見た‘ロング・グッドバイ’。チャンドラーとは
関係ない。娘さんの一人がアメリカ在住で、認知症のことをアメリカでは
そう表現することがあるんだと、おしまいに紹介される。ゆっくり遠ざかっ
ていく感じが出ている。安直ながらうまい言い方。
自身の病気がありながらも、介護の意欲満々の奥さんが、自分が回復
したら介護に復帰するぞ!と啖呵を切るかのように思いを吐露する。
 この人がなにかを忘れてしまったからといって、この人以外の何者か
 に変わってしまったわけではない。
 ええ、夫はわたしのことを忘れてしまいましたとも。で、それがなにか?
ワタシはカミサンが認知症になったら、こんなふうに考えられるかなぁ、
難しいかもなぁ。とまあそんなことを考えずに読むことは、無理でした。
確率的には、年上のワタシよりカミサンがのこされる確率のほうがよっ
ぽど高いわけですから、上記‘考えられる’は、‘可能’で使う気でした
が、そうじゃなく‘受け身’で使うのが正しそう。
さて・・・ここでの三人の娘さんたちが、それぞれ考え方に違いはあって
も、三人ともちゃんと介護に関与していく気持ちがしっかりあって、こうだ
といいな。なかなかこうはいかんだろうが・・・のこされたお母さんも大丈
夫そうだ。
で、ウチはどうなんだ・・・
迷惑はかけたくないけれど、でもそれなりにかけたい欲もどこかにあっ
たりする。
下の世話のことはたくさん出てきたが、臭うような表現にはなっていな
かったような気がする。体の重さも感じられない。
ことほど左様にきれいに―ほとんどすっとぼけたムードで―書かれて
いる。もちろん意図的にそういう表現を採っている。東昇平の死も
遠景に置かれて、あえてリアルさから距離を置いている。
こんなのリアルじゃねえ!と文句を言う人もいるかもしれない、いやきっ
といる。しかし、それはこの小説をよむときの態度じゃなさそうだ。
楽しめたかどうか言うのは難しいんだけどさ、いい小説だったと思いま
す。
ワタシのオヤジは癌でとっくに死んで、オフクロはまだボケずに施設でち
ゃんと生きています。そりゃ普通にいけばオフクロが逝くことが先にある
わけではありますが、、、それでもやっぱり、ワタシはこのお話は他人事
と思えない感覚で読了しました。