休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

『ゴルフの風に吹かれて』/夏坂健

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20180723(了)
『ゴルフの風に吹かれて』/夏坂健(1934-2000)
 Ⅰ 風に吹かれて
 Ⅱ ラウンド・ザ・ワールド
 Ⅲ 賢者のゴルフ
 解説 モルツを抱えた詩人、侍ゴルファー 高橋三千綱
  2013年4月/ちくま文庫/ゴルフエッセイ/装丁 安野光雅/中古
  <★★★★>
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「地球ゴルフ倶楽部」という単行本で、もう30年も前でしょうか、ファンにな
ったかた。ゴルフライターという職種になっている。
いくらか単行本を読んでから、「夏坂健セレクション(1)~(6)」を読んだら、
たいていのものがダブってしまうようになった。この本も読んだ記憶のある
ものがあったりなかったり。でも、いいですねえ、何度読んでも。
 〈Ⅰ〉が聖地スコットランドでの資料調査やゴルフ(ラウンド)
 〈Ⅱ〉は世界各地でのラウンドのほんの一部
 〈Ⅲ〉は、正しいゴルフとは何ぞや/いいゴルファーたれ/と訓をたれる
特に素敵なのは〈Ⅰ〉でしょうか。
12篇はいずれも極上の‘読むゴルフ’。やはり発祥の地の歴史の重みや伝
統が人の生や生活にがっしりと入り込んでいることのすばらしさ(≒うらやま
しさ!)、独特の雰囲気、そしてある種の旧弊さ。
MLBの7回に歌われる「私を野球に連れてって!」の歌詞の最後が  At 
the old ball game”と古い、時代遅れのという感じを出している(訳は‘昔
なじみのスタイルで’)ものの、ゴルフの古さはそんなもんじゃない。
このあいだのルール改訂にはびっくりしましたけどね。米国のみならず、英
国のゴルフ協会も一緒にというのが・・・。まあ、変わっていかざるを得ない
んでしょう。基本的に「時短」のため、というのが面はゆい。
どれでもいいんですが、ここで紹介するのは、“スコットランドのパブは爆笑
で更ける”というジョークをネタにした軽い一篇。
スコットランドでは、都会以外は、コンビニなんてものはないし、21時も回れ
ばシーンと静まり返ってしまう。唯一、パブだとかフィッシュ&チップスなどと
書いてある所だけが開いている。
そこじゃあ、夜な夜なジョークが語られつつ、更けてゆくんだとさ。
夏坂さんが入ったパブにて・・・はじめは、まあ硬めに紹介される、その一部。
  「俺たちは人なつっこい民族、店に来た者は誰でも歓迎する。ただし、パ
 ブはジョークの寄席だよ、ユーモアのない人間には居心地が悪い場所だと
 思う。これは人生全般についても言える話だがね。」
  夜の8時過ぎ、常連が次々にやって来る。ケルト発祥のゲーリック訛り、
 要するにズーズー弁紫煙が絡み合い、爆笑が充満して店内は酸欠状態。
 酔いが回るほどにジョーク合戦の幕が切って落とされる。客の多くは生ま
 れついての筋金入りゴルファーであり、本職のキャディもパブの常連だ。ゴ
 ルフは平等のゲームとあって両社の関係は互角、遠慮など微塵も存在しな
 い。
  「ユーモアはスコットランドが分泌した最高の文学。この事実に全世界が
 気づかないのは残念である」
  詩人のウィル・シモンズは、名著『ケルトの末裔』の中で次のように書い
 た。
  「かつて、ユーモアはフモール(液体)と呼ばれた。古代ローマの生理学
 では、人間の性格と気質を決定する液体と見られ、滑稽、機知、諧謔、風
 刺の精神が旺盛な人ほど、フモール液も豊富だと思われた。スコットランド
 は寂しい土地ゆえ、過酷な環境に生きる人間ほど心の支えとしてユーモア
 が不可欠であった。それは睡眠と酒に匹敵するほど必要なもの、ユーモア
 は人生の糧である」
なーんてなことを書き、そこからはジョークの一端が紹介される。そう書く筆
者も日本のジョークを尋ねられて、一つ披歴している。ここではその直後に
紹介される話を、載せてみます。
  「・・・ 大昔、アル中の男が尼僧とゴルフをすることになった。1番から男
 は悪態のつき放題、『畜生、ミスったぜ』と叫んだあとが『ファック』の連続
 だった。そのたびに尼僧は眉をひそめたが、罵声はひどくなるばかり。つい
 に彼女が厳しい口調で言った。
  「これ以上ひどい言葉を口にしたら、天の神様にお願いして罰を当てて
 もらいますよ』
  次のホール、男は懲りずに下卑た言葉を口走った。次の瞬間、暗雲が二
 つに裂けて稲妻が轟き、目も眩む光芒がが大地に突き刺さって一人のゴル
 ファーが即死した。よく見ると犠牲になったのは尼僧だった。そのとき天上か
 ら狼狽する神の声が響いた。
  「畜生、ミスったぜ!」
パブに爆笑がさく裂したのは言うまでもない。
楽しい読み物でした。


個人的につきあいがあったらしい解説の高橋三千綱氏の文章には、哀惜の
念がぎっしり詰まったもの。引用はヤンペ。

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テレビのニュースを見るたび「命にかかわる・・・」という言葉が聞こえます。
こう暑くては、頭の中にゴルフのゴの字もない。
「読むゴルフ」しかない。