休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

多和田葉子/犬婿入り

20171212(了)
多和田葉子犬婿入り
 
 ・ペルソナ
 ・犬婿入り
 
 1993年/小説/講談社/初出1992年「群像」/中古
 <★★★△>
イメージ 1
 
大きな賞を受けた「犬婿入り」から読みました。(「ペルソナ」もその候補作)
 
犬婿入り
沖縄あたりの民話にそんなのがあって、おおらかだが少々卑猥なおかしみ
がある・・・
語り手はなんとなく移動する感じはあるけれど、一応女のようでもあるし第
三者のようでもある。
東京の多摩。
40前らしい女が住み着いて、塾を始める。子供たちはなつき、母親どもは
この女についてあれこれ口さがないが、しまいにゃ認めてしまう。
女は、子どもたちにしばしば尻を舐める犬の話をする。
次は、女の住まいへ妙な男が入り込み、なぜかそのまま同棲生活になる。
女の目に映るこの変な男のことが面白く語られる。
その次には、この男の妻だったらしい女がやってきて、この男とのことを
説明し始める。ぜんぜん怒っていない。この男には変身癖がある。それは
ともかくこの男、なんだか犬っぽい。女が子供たちにした尻を舐める犬の
話と呼応する感じがある。それは女よりむしろ読者側が連想するのかな。
そしてその次には‘出来の悪い’女の子が、女の生活の大切な一部にな
るというようなことが起きて・・・
 
とまあこうしたことが句点(。)のごく少ない、だらだら続く文章で綴られて
ゆく。作者がドイツで書くことから連想したトーマス・マンの長たらしいセン
テンスとは感じが違うし、吉田健一の妙に楽しいひらがなの多いヌタヌタ
文とも違って、(比べるほうがヘンなんだけどね) 確信犯的に子供っぽく
独特。意図はよくわからない。でもちょっと面白い気もする。ユーモアを支
えていた感じ。これならエンタテインメントだよね(?)。
 <★★★△>
 
ペルソナ;
ドイツに姉弟で留学に来ている。
主に姉のほうを描いている。ほとんど日本人ばかりを相手にしながら、
彼女は何に対しても「イヤイヤ」の雰囲気を発散しつつ、徹底的にいじけ
まくっているの図。
こうして倦むことなく(?)・・・うだうだと自分探しをしたり、気持ちや感情や
記憶の襞に分け入ったり分け入るのをためらったり、あるいはそういうこ
とから懸命に逃げたり。そんなことをネタによくもまあ書き続けることが出
来るもんだと思う。女性という点が希少なんだろうか。 そうでもないよね、
きっと。漱石じゃあるまいしって、彼女はそこがドイツでなく日本でも似た
ようなことになりそうに思うが、どうなんだろう。
何を象徴するのか、おしまいでは‘スペイン製の能面’を付けて、つまり
これが‘ペルソナ’なんだけれど、モンゴロイドとしての平静を得たような
具合。
これはエンタテインメントじゃない。
 <★★★>
 
この方のドイツ便りふうな記事が、行き届いて冷静な感じで面白かったの
で、何か一つ読んでみようと思って、中古屋のバーゲンで見つけたもので
す。
この二篇では、「犬婿入り」のほうがずっと面白かったですが、20年近くも
前のものですからね、その後はドイツ語でも小説を書いて、どんな権威が
あるのかは存じ上げないが、むこうでクライスト賞とかいうのを受賞。朝日
新聞の片隅に載ったのを憶えています。
ワタシの感触では(エラそうに何を言うかってなもんですが)まだこの2作
品は原石ふうで、今はすっかりタイプの違ったものみたいに見えるものを
書いておられるような気がします。