休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

川上弘美/『溺レる』

イメージ 1
20170326(了)
川上弘美/『溺レる』
   1、さやさや
   2、溺レる
   3、亀が鳴く
   4、可哀相
   5、七面鳥
   6、百年
   7、神虫
   8、無明
  1999年/短編小説集/文藝春秋/中古/(掲載1997-1999文学界)
  <★★★☆>

「蛇を踏む」という賞を受けた小説集の次のものではなかったか。
タダみたいな処分品の篭にあったのをつい拾いあげておいた。
先日読んだSFめいた長編の影響でしょう。
‘初期短編集’(掌編集)の一つ。
で、文章~文体は、ああこれこれという感じ。
帯はこうです・・・
 ・カフカが性をテーマに小説を書いたら、こんなふうになるのだ
  ろうか。しかも透明な気配が満ち満ちている。セックスと清ら
  かな透明さ。なんという不思議な共存だろう。(亀和田 武)
 ・恋愛小説の極北と断言できる。距離を決して埋められないの
  に、いわば心根を尽くして寄りそい抜く恋の姿、その切なさの
  諸相がここには描かれている。決して甘くない。むしろ噛みし
  だくほどに苦みの増す恋の滋味だ。(清水 良典)
絶対にややこしい文章にしない、言葉も平易なものしか選ばない
のに、人の行為の文章化、思いの文章化がなされると、こんなに
も独特。
たとえば・・・
「溺レる」の恋人同士とも言いにくい男女の奇妙キテレツなミチユ
キ。なにかからなぜ逃れるという当初の理由はどんどん曖昧にな
り、二人で‘ただ’逃げているだけの状態になったまま、ずるずる
時間がたって行く。ちょっと、ロードムーヴィーふう。
ほとんど彼女の視点から見たもので、なんでこんな男についてゆ
くんだかってのももちろん曖昧でヘンテコリンだが、なんといって
も、彼女のよって立つところのモノのなさは、いわく言い難い。な
にからなにまで宙吊り。それが帯文の‘カフカ’なんだろうか。
こんなアンニュイとでもいうのかな、彼女の感覚がどの編にも、薄
い墨を流したように覆っている。
帯の惹句になかったら、カフカの名は思いつきもしなかった、きっ
と。
虫なら「神虫」に出てきたが、ゴレゴール・ザムザを思わせるもの
じゃなかった。ここでの虫はどこか‘孤軍奮闘の閻魔様’。
交情がどんどん激しくあけっぴろげになっていったり、語り部本人
が幽霊になってみたりする。よせばいいのにやっぱり男を相手に
する。カタカナで書かれる男はいつだって勝手で無理解。
そして女の曖昧さは終始変わらないみたい、何もつかむことがで
きないみたい。しまいにゃ不死になってしまう。不死だよ!
で、男との距離はどうなの? というところだけど、それはまあ、書
かぬが花。ワタクシメは‘寓意’はほぼ感じなかった。