(帯裏惹句) |
人の住まぬ荒地には、夜どこからともなく現われた女のけたたましい笑い声 |
が響き渡ると言う。 |
川岸の砂地では、河童の足跡を見ることは決して珍しいことではない。遠野 |
の河童の面は真っ赤である。 |
ある家では、天井に見知らぬ男がぴたりと張りついていたそうだ。家人に触 |
れんばかりに近づいてきたという。 |
遠野の郷に、いにしえより伝えられし怪異の数々。 |
民俗学の父・柳田國男が著した『遠野物語』を京極夏彦が深く読み解き、新 |
たに結ぶ―― |
いまだかつてない新釈“遠野物語”。 |
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(remix 序) |
この物語はすべて成城の人柳田國男先生の著された書遠野物語に記され |
て居るものなり。明治四十三年に記されてより、百年を通してをりをりに讀み |
繼がれし名著なり。柳田先生は文學者にはあらざれども名文家として識られ |
る碩學の人なり。自分もまたその端正なる美文に因り喚起せらるる感動を損 |
なはぬよう、一字一句をも加減せず、時に補い時に意訳し、順序を違えて、 |
拙き筆なれど感じたるままを傳へらるるやう努め書きたり。思ふにこの遠野 |
鄕に傳はる物語は百年を經て色褪せることなし。今の世に在りてこそ、より |
多くの者に讀まれん事を切望す。願はくはこれを語りて平地人を戰慄せしめ |
よ。 |
京極夏彦 |
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この前読んでいた万城目学/『偉大なる、しゅららぼん』が、民話系な内容であ |
るとか、ある種の超常的現象で共通するよなあ、なんて発想でこの「遠野物語」 |
を手に取った。 |
ところがなんと、遠野は城下町であったとか、もっとずーっと昔にはこのあたり一 |
帯は湖であったと言うではないか。湖と湖の民という点でも共通点がある・・・ |
いや、万城目さんはそのへんだって押さえていたのかもしれんけどね。 |
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短いお話の集積。いろいろ出て来るんだ。 |
特殊な能力のオンパレードな山の神(山人)は背高で赤ら顔、河童も赤くて女を |
孕ませたりする、座敷童も出る、山姥や狐も出てきて騙す。 |
たいていが‘能力’‘Gift’を持ってるらしいのね。 |
そのほか、あるはずのない家マヨイガなんてのが出没したり、死ぬ直前の人が |
あちこちに顔を出してみたり。 |
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確かにゾワゾワした感じもあるんだけれど、みんな妙に落ち着つきはらった話で |
もある。 |
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京極さんが意訳のみならず、文章の順序など整理し直しているせいでだろう、共 |
通するものがかためられ、良くも悪くも相当にわかりやすく変わっているよう。 |
原作を読んだことにはならないかもしれないものの、でもまあこういう内容のもの |
だったんだなぁと、長い間喉につっかえていたものが取れたような気になった次 |
第。 |
思い返すと、恩田陸の「常野物語」シリーズももちろん遠野物語からの発想もあ |
るんだろうけれど、舞台を現代に移して、化物扱いされがちな超能力ものだから、 |
切り口が逆だし、関係が濃いか薄いかは微妙。一作目だけ読んだことがある。 |
こういう作品だったらたくさんあるよね。 |