(カバー解説) 相模屋の店先で雪駄(せった)が一足盗まれた。上野山下の助五郎 |
親分は、懸命に追い、下手人・仙八を挙げた。そこで相模屋出入りの岡っ引・判 |
次は、穏便に赦免してもらおうと、親分に頼みこんだ。ところが、うまくいかない。 |
単純に見えた事件は意外な展開をみせはじめ、やがて大きな謎が・・・。 |
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北上次郎解説(「物書同心居眠り紋蔵」の解説も書いていたなあ)によれば、 |
①ユニークな職業と背景がディーテル豊かに語られる |
②主人公の個人的なドラマが陰影豊かに描かれる |
とまとめ、岡っ引・半次の物語の開幕であると、シリーズの開幕を告げている。 |
まあ、①②はそのとおりなんだが、特に①。‘ディーテル豊かに語られる’、その |
克明さが半端でない。 |
江戸の町の様子のみならず、その仕組みや慣習などが洗いざらい説明されなが |
ら事件が進んでいく。町の様子を目の当たりにするような気もするが、場合によっ |
てはうるさいほど。しかしそれで、事件が徐々に頭に入ってくる来方がしっくりくる |
みたい。 |
事件はあまりにさりげない始まりなので、正直ぴんとこない。それがじわじわと広 |
がりを見せ、仲間が死んでしまうあたりからは、半次にとってとんでもなく重たいも |
のに変貌してゆく。 |
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岡っ引の(仕事や実入り等の)ことはある程度知ってはいたが、これだけ克明なの |
も珍しいんじゃないか。 |
中でも、繰り返し出て来るものの、なかなか理解できなかった事柄、「引合を付け |
て抜く」。江戸の犯罪の多くは盗みで、捕まるのも多く盗人。彼らはたいてい複数 |
の盗みをしているから、細かく調べて被害に遭ったところを一軒一軒訪ね、関わり |
があったことを告知する。(=引合を付ける) 以下引用・・・ |
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引合を付けられたほうは大変である。飯屋で飯を食っただの、ちょいと立ち寄っ |
て店先で腰を下ろしたなどというのにまで、「引合」を付けられるのだからかな |
わない。 |
そのために町役人と同道して御白洲の前に出なければならないのだ。一日が |
それでつぶれてしまうし、同道してもらった町役人に、ご馳走をふるまわなけれ |
ばならない。そこで、その金と手間を省くために、被害はなかった、あるいは関 |
係がなかったことにしてもらう。それが「引合を抜く」ということで、ようする |
に袖の下を掴ませて勘弁してもらうわけだ。これが手先たちの稼ぎになってい |
た、というのである。 |
盗っ人たちのほうも牢に入る時に支度金を持っていかないと、手ひどい仕打ち |
を受けるので、おこぼれを貰うために岡っ引きが「引合をつけて抜く」ことに進 |
んで協力する。岡っ引と盗っ人はそういう関係にあったという事情が、まず冒頭 |
で語られ、出入り先の米問屋に同業者から引合を付けられ、主人公の半次がそ |
れを抜く交渉に出かけるところから、この物語は始まっていく。・・・ |
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以上本文でなく北上次郎氏の解説がまとまっているので、いただいちゃいました。 |
克明な解説が話の流れを損なう寸前と言っていいほどの時もあって、点数が高く |
ならなかったのは、そのせいなのだけれど、そういや「居眠り紋蔵」の時もそうだっ |
たよな。今はもう慣れてしまっただけで。 |