休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

チャールズ・パリサー/五輪の薔薇 (上・下)

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20140617(了)
チャールズ・パリサー/五輪の薔薇 (上・下)
 
  THE QuincunX/Charles Palliser (訳:甲斐萬里江)
 
   第一部 ハッファム家
   第二部 モンペッソン家
   第三部 クロウジャー家
   第四部 パルフラモンド家
   第五部 マリファント家
 
  1998年3月/小説/早川書房(単行本上下巻)/ⓒ1989/中古
 
  <★★★★>
 
1800年代初頭の英国の田園とロンドンを舞台にした物語。
作者はアメリカ出身だが、主に英国育ち、オックスフォード出の英文学
の先生。12年もかけて書かれたそうな。
  原題;五点図形  副題;ジョン・ハッファムの遺産
 
上下巻合計ページが約1300、上下2段組み、二冊の厚みが計8cm。
1冊4000円。(今は文庫化されているはずだけど、もっと厚いかもね。)
1999年か2000年の「このミス」上位に確かランクされていて、好意的書
評が多かったので、読んでみてもいいとリストアップ。しかし2冊で8000
円は当然論外なんで、まあいつか、中古に出て、それも安くなるだろう、
ぐらいに思っていたんですな。もう15年前になるんだ。
それが今年になって100円コーナーに並んでいるのを見つけた。計210
円でゲット!って、気ぃ長いワ、我ながら。
買うだけは買ったものの、当分読むまいと思っていたところ、家の中が
どんどん具合悪くなってきて、耳をふさぐように、思わず取りかかってし
まった。
メモを繋いだ拙文、長くなりましたが、本も長かったので、ご容赦。
 
ディケンズウィルキー・コリンズの名がならべられるような惹句が見
えるんだけど、文豪の作品なんぞごくわずかしか読んだことがない。
「月長石」なんてねえ、読んだことは覚えているものの、中身なんか思
い出せないよ!
 
とにもかくにも、まあ古めかしく書かれていること!
文章自体は訳でもって、そんなに古風じゃないんだが、キャラたちの
反応や物語の転がり方なんでしょう、古めかしい(≒エグイ)のは。 
イライラいらいら。
それと、いつまでたっても変わらない情報の出し惜しみ。
昔のミステリーなんて皆そうだったけどね。ここじゃとりわけ、主人公
の母親。あきれんばかりの世間知らずぶりと合わせて、その出し惜し
みぶりにぶん殴りたくなることたびたび。作者の術中に完全に嵌って
しまったわけだわねぇ。
だいたい遅読なのがイカンのだ。
 
オリバー・ツイスト」「大いなる遺産」「デイヴィッド・コパーフィールド」な
どとの類似を指摘しているものがあって、とすると、もともとディケンズ
へのオマージュ的な面の濃いミステリー作品なんでしょう。 (ディケン
ズのフルネームがチャールズ・ジョン・ハッファム・ディケンズで、この
小説の主役の名がジョン・ファッハムであり、主人公の誕生日も同じ
だって指摘されているのを見つけたから、そらぁもう決まり。)
逆に、読み続けられたのは、そもそもディケンズをほぼ知らないって
いう無教養がよかったのかもしれない。
はじめは「オレはなんでこんなもの読み始めたんだろう」と何度思った
か。ちょっとづつしか読み進まないものだから、一冊読み終えたところ
では、話は、騙され欺かれての極貧・傷心・屈辱などの艱難辛苦もさ
ることながら、こちとらの頭の中は錯綜もいいところ。お話の内容は・・・
荘園の所有権争いに関わることとそのもとになる主要キャラク
ターの関係図が「ミステリー」。主役は一応、その争いの中でも
みくちゃになる母子。
もちろん読み返すなんてそんなアホな・・・てんで、頭ん中でつじつま
が合ってくれるようにと念じつつ、そのまま続けて下巻へ。
 
(古典文学を読んで費やす老後って、どんなもんなんですかねえ。下
手すると、今みたいに次々に発生するイライラする問題にへばりつか
れたまんま生き続けてしまって、読めなかった、残念でした、なんてこ
とにもなりかねない。あるいは問題の質が違って、脳の血管が切れる、
脳が縮む、眼がダメになる・・・  “明日のことは思い煩うな・・・云々”と
聖書のどこかにあって、そらぁ無理だけど、本を読んで過ごす老後って
ものにも、なかなか高いハードルがあるよ。)
 
さてさて下巻では、無数の謎が解きほぐされて行く流れではあるのだが、
その複雑怪奇さにやはりヒーヒー。こうだったのか、ああだったのかと、
主人公はいろいろ察しよく納得し続ける内容が(解説にあたるところが)
ぞろぞろ出て来るものの、心配したとおり、こちとら青息吐息。
(付いて行けたのか?付いて行けなかったのか?どっちなんだ!!! ・・・)
いやもうここまでくれば、真相を知らないでは生殺しだもんね、付いて
行きますって。
情報の出し惜しみは依然として盛大で、主役の母親の(下巻ではその
手記の)ものに続けて、叔母もそう、ぼけた執事もそう・・・ ・・・
 
ロンドンという大都会の下に広がる暗渠(≒下水)の世界。
マイ・フェア・レディ」のイライザの住むスラム、そこからこぼれる人た
ちの受け皿ふうでもある徒党を組んだり争ったりの裏の世界の住人達、
などなど底辺の極貧に生きる人たちの世界。
観ていない面白そうなTVドラマ「ダウントン・アビー」に描かれている(よ
うな気がする)前世紀や前々世紀における貴族の邸の召使いの世界。
・・・こういったものの克明な描写が謎解きに絶妙に絡んできてね、牽
引役として大きかったと思う。
 
そして、主人公の採るべき道はどんどん狭くなっていく。
気になるヒトに、財産がほしいだけでしょ! とか、復讐がしたいだけで
しょ!とか言われて、ますます出口が見えない。読んできて散々腹を
立ててきたこっちにとってみれば、復讐と財産でいいじゃん!!! と思える
んだけど、そういうわけにも行かないらしいのね。
(ストーリーとしての大団円はともかく、果たして「読者が納得する」終
わり方はあるのかいな!)
 
さてさて、メモを繋げてみたところですが・・・ 終わり方・・・
正直言って作者が、「どうだ、ついてこれるか!」と挑戦しているかの
ごとき謎の多くはワタシにとっちゃあとても解けたとはとても思えない
けれど、主人公の独白により、収まるべきところへ収まったようです。
ハハッ! ワタシなんざその程度。
(五つの家系の五代にわたる相関図! 一部ごとに随時埋まって来る
んだが、先々の図を事前に見ていても、判らんかったもんね。)
また次から次へとやってくる山場が最後まで続き、その最後の最後に
訪れる静かで少々重い感じの余韻により、今後どうなっていくかもわ
かった。
(時間かかったぁ、一ヶ月近い。)
 
 
「このミス」を見ると、’99年版。
毎年雑誌は買って読むくせに、上位をちゃんと読むかというと、よう読ま
ん。この年のものは・・・
海外編は、1位「フリッカー、あるいは映画の魔」(T・ローザック)、15位「弁
護」(D・W・バッファ)しか読んでいない。
ついでに国内編を覗くと、3位「理由」(宮部みゆき)、4位「屍鬼」上下(小
野不由美)、8位「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎)、15位「クロス
ファイア」上下(宮部みゆき)、17位「海賊モア船長の遍歴」(多島斗志
之) が読んだもの。
まあ、大分たってからの中古屋の在庫しだい、気まぐれしだいってこと
なもので、今見るとヘンな選び方してますな。でも少しでも読んでるも
ん、立派じゃん。今なんか全然読まない。雑誌見るだけ。
ところで‘五輪の薔薇’は海外編の5位に、〈奇跡〉と呼ぶにふさわしい
面白さ!と題して長文紹介されている。その書き出しは・・・
 
  担当編集者のコメントがふるっていた。「たしかに、長い、高い、重い
  という三重苦のケレン・ケラー本。ただし、小説を愛する読者の期待
  は裏切らない〈奇跡の本〉ということだけは保証します」 うーん、いい
  ね。まさにこの作品の面白さは〈奇跡〉とよぶにふさわしい。・・・
 
と始まっていた。
 
感慨は・・・ 古典文学は、若いうちにたくさん読んどかないといけない。
年を食ってからだと、経た人生経験の割には我慢するのが、かえって
大変! ブチ切れそうになる頻度が多すぎる・・・
価値観のありようを広く持ったまま年を取るのは、バカ扱いされたり木
偶の坊と言われたりなんかして、少なくとも女性には受けにくい。難か
しいことなんだよ、きっと。
な―んてね。