休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

佐野洋子/死ぬ気まんまん

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20140227(了)
 
佐野洋子/死ぬ気まんまん
 1938-2010/11/5
 
     (1)エッセー  死ぬ気まんまん
  (2)対談    佐野洋子 × 平井達夫(築地神経科クリニック理事長)
  (3)知らなかった ―― 黄金の谷のホスピスで考えたこと
  (4)「旅先」の人 ―― 佐野洋子の思い出  関川夏央
 
 
    2011年6月/エッセイ/光文社(単行本)/
    初出(1)2008年-2009年小説宝石、(3)1998年婦人公論//中古
 
    <★★★★△>
 
山崎努さんの読書日記に影響を受けて、佐野洋子さんのエッセイを捜してみた。
エッセイは山崎さんの本の中でだって強烈なんだけど、ここでは佐野洋子さんご
自身から少々離れさせていただいて、しかも脱線っぽいですけれど、(2)の対談
から大半はおなじみの一般論を少し。この先生、なかなかストレートな話しっぷり
でね。佐野さん、もうすぐ死ぬと宣告された後でのもので、ええんかいなとも思い
ましたが・・・彼女の死に関するやり取りもほかであけっぴろげにされているのが
載っかっています。佐野さんの本領は当然以下のものでは、あまり発揮されてま
せん。男性よりは女性のほうが当然引っかかる内容でしょうね。ワタシはこの先
生の考えに基本的に賛成です、もちろん。もう戻れないだろうということも含めて
ね。
外れた内容と書きつつの紹介としては長すぎますが、勢いで・・・(ホントは写真で
十分です)。 あるいはこの前載せた‘山崎努さんの読書日記’を参照ください。 
 
 
(2)「五十歳までは遺伝子が生存・生殖モードでプログラムされている」
 
平井  生物学的人生論から言うと、、種族保存が生物の存在の第一目的だと
 思います。だから種族保存のためなら、遺伝子が何でもやってしまう。シャケ
 が川を何百キロも上ってきて傷つくけど治る。そして子供を産む。これは、遺
 伝子のプログラムが産卵が済むまでは壊れても治す、壊れても治すとやるん
 ですね。産卵が済むと、「はい、ご苦労さん」と言ってパッと遺伝子のプログラ
 ムが切れてなくなるんです。それでパタッと死ぬ。
  人間も、遺伝子がちゃんとやってくれるのは50から55歳ぐらいまでですね。
佐野  あとは、無駄ということですね(笑)。
平井  無駄というか、要するに何が起こるかというと、55歳以上では個人差が
 すごく大きくなってきます。生活習慣により状態がいい人は元気だけど、悪い
 人はどんどん悪くなる。50歳までは遺伝子が生存・生殖モードでプログラム
 されていますから、ほとんどに人は平等に元気に仕事ができるわけです。
佐野  そうですね。老人の個人差ってすごいですね。
平井  すごいんですよ。だから、55歳以上で種族保存が済んだら、社会的に
 世のため人のためには必要かもしれないけど、もう生物学的にはいらないん
 です。
佐野  結局、どんな動物も生まれて生殖して死んでいくだけじゃないですか。人
 間だけですよね、その間にそうじゃないことをやるのは。
平井  人間の脳の発達に関係していると思います。特に大脳皮質の発達に伴
 い、本能の上位に位置する情動脳から大脳皮質へと情報が流れて食欲、性欲
 などの根源的な本能以外に知識欲、創造欲などの高等な欲望が本能的に発
 現するシステムが仕組まれており、人はいろいろな活動を行っています。
  ただし大脳皮質から出る活動でも、動物本来の本能である食欲や性欲などを
 コントロールすることはできません。このため聖職者、神父さんとかお坊さんが
 食欲や性欲を完全に抑えて生きていけるのか疑問です。無理じゃないかと思う
 わけです。
佐野  性欲と闘ってナイフであそこを切るという人もいる。
平井  それは完全な逆行ですよ。遺伝子の束縛からは逃れられません。
佐野  人間の個人の力を超えたものなんですね。
平井  そうなんですね。そういうものに支配されて、55歳をすぎると肉体的、精
 神的な欲望も衰えます。ところが、現代人は「活動できる人生は短い」というの
 は案外自覚していない。心配なのは若い人たちが結婚しないでしょう。
佐野  そうですね。
平井  人の一生を生物的に見ていくと、出生してから成長し、自我を確立して、
 生殖に励み子供を産み育てる。苦労して子供を育てて、ようやく楽になってくる
 と両親が弱くなるんですよ。それが済むと、今度は自分の番になる。普通はう
 まく回って行くように神様(自然)がつくってくれたわけ。
  だから、女性もだいたい20歳代ぐらいで結婚して子供を産まないと、生物学
 的な回転がうまくいかなくなってしまう。さらに病気になりやすいのです。神(自
 然の摂理に逆らうんだから、いろいろなことが起きちゃう。
佐野  結婚しないのは、世の中も便利になって結婚しなくても済むようになった
 から。
平井  そうなったのは、人間が生物学的な掟を忘れて掟から離れつつあるんで
 すね。
佐野  そうですよね。人間も動物だということをどこかで忘れられてしまいました
 ねえ。
平井  そんな千年や二千年で遺伝子の基本構造が変わるわけはないですか
 ら、現代人の生活は生物学的なものと相反するように動いていますね。でも、
 もう戻らないでしょうねえ。
  せいぶつとして自然の摂理に合わせて精一杯生きて、死んでゆくことが、人
 間としても最も幸せな事と満足するのが必要と思うのです。自然の摂理に逆ら
 ってまで奮闘するのはいかがなものかと思います。
佐野  私は闘病記が大嫌いなの。それから、闘うというのが嫌いね。「やめろよ、
 壮絶なんて、さっさと死ねよ」という感じがする(笑)。
平井  それは年にもよると思います。乳ガンの転移性脳腫瘍の患者さんは、  
 40代が非常に多いんです。だから、お子さんが小さい。そういう人に「余命何ヶ
 月だ」と言うと、旦那のことはあんまり考えていないんだけど、子供のことを心配
 しますね。やっぱり幼い子を置いてはね・・・。
佐野  だって、旦那は他人だけど、子供は肉親だもん(笑)。
平井  10ヶ月間お腹にいて一身同体でやってきて、出産して、それでまた一歳、
 二歳とずっと育てるわけですから、生物学的に言えばすごいことですよねえ。
佐野  私は子供もうんだし、仕事もあるし、家事とかもやってます。それでも、子
 供を産んで育てることを考えたら、仕事が一番楽ですね。でも、男は子供を産ま
 ないわけよね。
平井  産めないです。
佐野  すごい痛いんですよ。お腹から出すときから大変です。そのうえ、子供を
 育てるのが一番大変ですね。
平井  それは、産んでみないとわからないですね。
  キャリアウーマンって結婚しない人が増えていますが、私にはよくわからない
 ですねえ。
佐野  そういう人は年をとると後悔するんですよ。  
平井  女性の精神と肉体は、子供を産んで育てるということに絶対的な祝福を
 与えられてつくられていますからね。これを抜いては、一番いいところを経験で
 きませんね。完全に生物学的なところからは外れていますね。男の場合は、だ
 いたい一万年前でも、種をつけて子供が大きくなるまで餌を運んでくるのが役目
 なんですよ。役目が済むとシャケのようにいさぎよく死んで消えてゆくのです。
  しかし女性は大したもので、もう子供のためなら何でもやる。男はわりと子供
 を捨てられるんですよ。子供が言うことをきかない「勘当だ」と。女は、子供がい
 くら罪を犯しても、殺人犯になっても、絶対見捨てない。
佐野  そう思います。
平井  それが神(自然)が与えた女の性なんだと思いますね。
 
 
この先生との対談を入れるのは本人の希望。当初は痛みだけ取ってくれればい
いと言っていたものの、脳(多分骨のほう)にも移転したため、ピンポイントで脳に
「ガンマナイフ」で放射線を照射する‘治療’を、この先生から受けた。辛いものだ
ったようだが、効果的でもあったとのこと。信頼も厚い。
てことで、話の流れの中でなにやら入りこまざるを得なかったみたいな内容です。
この一般論が佐野さんにとって意味があったのかどうか、結構あやしい。このあと
養老先生の唯脳論みたいな話になり、ようやく死についての妙にあっさりした話し
合いになります。
 
ともあれ、面白いのは(1)と(3)のエッセイ。
イメージは本のカバーの写真に載っている文章のような感じの内容がいっぱい
詰まっているというようなところかな。
歯に衣を着せない‘斬り捨てごめん’風な書き方をされ、いちいちもっともなもの
だから‘自由奔放’と許され評されるんでしょう。快哉を叫ぶかたも出る。
でもまあワタシが非常に苦手としている所謂ウーマンリブじゃないのがいい。
ただし、結婚離婚を2度づつしたとか、ジュリー(沢田研二)がいまだに好きだと
かというのからすると、どうやら男を見る目は大したことはなかったのかもしれな
いのですが、ハハ、もっとも女からすれば、男なんざいい子孫を残せそうに見え
ること(=カッコよく見えること)こそが大切なだけで、男の人となりだとか相性だと
かは二の次の問題と言ってしまってもいいのかもしれない。
 
壮絶な死に方は多分されなかったとおもうが、よくわかりません。
ガンは早期発見以外は基本的に完治しない。ということは「死病」。
ワタシもね、癌で死ぬのが一番いいんだよという言い方が、少し気になりだした。
そりゃまあ、癌もいろいろなんだろうけどさ。それに国民の半分近くが罹るんだ。
四の五のと言っても、ほっといてもなっちまう確率が高いんだけれどね。
 
(3)は(1)を逆にさかのぼって、ホスピスに短期間入院していた間のエッセイ。
これが失礼ながらものすごく面白い。
 
(4)はごひいき関川さんの文章で、長いあとがき。佐野洋子さんとのつきあいが
書かれているほか、佐野さんの出自について丁寧におさらいをしている。
それから、あっと驚くような事実も紹介されていて、これは何かで紹介されたこと
があるんだろうか。(大韓航空機が1987年11月にインド洋上で爆破されたこと
に大きく関与した犯行グループ側のリーダー格の男との面識)
身内を送るかのような親しげな文章になっている。