休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

山崎努さんの自伝ふうエッセイ

20260205(木)

「俳優」の肩ごしに/山崎 努

   

   

 

 2025年1月/エッセイ/文春文庫/(単行本/2022年/日経新聞)/中古
 <★★★★☆>

 

たくさんの短い文章でできているエッセイ集で、一応自伝。文庫。単行本も
あったんでしょうね。活字が大きいこの文庫では一篇が4ページぐらい。新
聞(日経)に連載されたとあります。
10年ぐらい前でしょうか、一冊読んだエッセイ『柔らかな犀の角』がもの
すごく面白くて、これはいまのところ処分はできないでいるのですが、その
後は山崎さんの本は読まず(って、ごくわずかだったんですね)本自体もあ
まり読まなくなったものですから、今回はむしろたまたま。
 
はじめの2‐3篇は調子が出ず、どこかたどたどしい。その後は調子が出て
きたようです。でもそのたどたどしい文章の部分にこの本のキモ、大事なこ
とを書いています。
人も俳優も、(役という)決められた枠、枷、フレームの中で生きなきゃし
ょうがないものなんだ。「言わせてもらえば、僕がこんな面相でこんな家に
生まれたのは僕の意思ではない云々」 他にもうだうだ書いているが、まあ
そういうようなことなんだって。ヘェーですが、大真面目みたい。
それかあらぬか、ってのも無理やりな感じだけれど、
「俳優を生業とするようになって六十年余りになるが、これまで自分の役を
自分で選んだことは一度もない・・・」 そのあとにもやはりうだうだ書い
ておられ、「ルールに反する」んだって。これには、更にヘェー。
 
子ども時代の自分はツトムくん、もしくは努くんと書く。戦争の時代。父の
復員と共に一皮むける。この時の自分の危なっかしいパフォーマンスが「演
技」することに繋がっているかも、だって。
 
中学や高校(夜学)はバイトをしながら。新聞配達、牛乳配達、納豆屋・・・
家は千葉県柏市だったが、学校のある上野で映画。マーロン・ブランドに入
れあげ、芥川比呂志の「ハムレット」に、つまり新劇に入れあげ、叔母さん
だかに「やめなさい、おまえみたいなカオで」、とか言われても、とうとう俳
優養成所へ。まだ序盤だけど、、、これぐらいにしておきましょう。
ここからは俳優業。活動が面白いというよりは、ちょっぴりひねくれている
ツトムくんが俄然面白い。短い自分史。
 
さて、有名人たちがたくさん出てきます。失敗談も苦労や学びもたくさん。
まぁ、一篇一篇が短いってこともあるかもしれないけれど、表現が実にさら
っと、というか、あっさりしている。その加減がワタシ好きですねぇ。
はじめに紹介した『柔らかな犀の角』は読書日記的なものではあったわけだ
けれど、こんなにさらっとしてたかなぁ。(最後の方でこの本のことに一瞬、
触れられています、こんな文章を書く仕事なんてほとんど初めてだったそう
な。信じられない)  気が向いたら再読してみるか・・・

 

この「犀」については、ワタシなりには・・・ 読書が仕事の人間(評論家
や作家)とは違って、フツーの素人の書きようなんだが、特色というなら、
特殊な表現者(俳優)であるという点が絶大なプラスの魅力になっているん
じゃないか、などと・・・ この書き方じゃ、ありふれてますね。

 

本じゃなく新聞で、ある映画監督が山崎努さんに言われて衝撃的だったとか
なんとか書いていた。『犬にとって散歩は「単なる散歩」じゃない』ってや
つなんですが、ワタシにもけっこう刺さりましてね、その後の散歩だって普
通どおりながら、この気持ちは持ち続けているつもりです。ここに、かなり
前にですが書いたことがあるはずです。
 
話がそれました。フーン、フーンとページをめくっているうちにあっさり読
み終わっちゃったのですが、なんだか、思っていた人となりとだいぶん違っ
てた感じ。役者でなく、恥ずかしさを失わない俳優。楽しい読書時間でした。

 

例えば、恥を知らない演技者はダメなんだというような話の時に、こんな引
用や喋りがありました・・・
「自分をさらけ出すことの恥ずかしさ、自分が自由になることの喜び」 
   ジョン・ギールグッド
「僕も恥ずかしいと思わない表現者は馬力がないように思います」
   山下澄人

 

NHKテレビの「正直不動産」という漫画っぽい連続ドラマはほぼ全部観て
いて、そこに「もののわかった」ふうな、あるいはえらく老けた天使のよ
うなジジイとしてちらっと出てらした。あれからお見掛けしていないと思
う。お元気なんだろうか。ああ、癌の記事がありますね。

 

自伝最後は、「リア王」で舞台を止めたところまで。舞台以外はもちろん続
けられた。最後の一篇は老いを扱っていて、いたって最近の記述のようです。
去年の年末に101歳と11ヶ月で死んだオフクロに繋がる話(ほんの些細な話
なんですがね)もあって、あっと思い当たることがありました。
あとは対談と寄稿と解説。
山下澄人さんとの対談は演技論が中心。はっきり言ってワタシにゃ関係ない
話に近い。なのに、これ、猛烈に刺激的でした。映画観る時にだって役立つ
かもしれないが、やはり演技(者)にとっての名言、警句、箴言、アフォリ
ズム・・・まあそんなものに満ちている気がしました。
「正直不動産」の主役を務めていた山下智人の寄稿は、大先輩を精一杯ヨイ
ショしたもの。
最後は池澤夏樹さん(友人だそうな)がやけに見事に締めている。

 

追・・・
 処分せずに残してあった本『柔らかな犀の角』を見つけ、パラパラ。
 折ったあとがいくつかあって、ついその個所を読んでしまいました。この
 寛いだ調子もだけれど、中身と筆者山崎さんとの間隔が絶妙。四篇、五篇
 と読んでいるうちに、寝る時間に食い込んじゃった。
 芥川比呂志さんのエッセイは2冊読んだことがあって気に入っていました
 が、山崎さんは実際に濃い付き合いがあって取り上げていたから、軽く書
 かれているのに、いやはやリアルなこと!
   でも、山崎さんの一体何が気に入ってるんですかねえ・・・
 本やその他経験などの取り込み方、咀嚼の仕方と、そのアウトプットの形
 が、結構正直でなんだかいいなぁ、というような、まあ結局、あらかたは
 出ているように思える「人となり」の感じが好ましいのでしょう。なに、
 思えるだけのこと。こういう面白くて楽しい本を読むと、小難しい本に取
 りつく気力が出てくるかどうか心配になります。年齢のせいもあるのかなぁ。
 
長くなりました、スンマセン、終わりにします。