休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

認知症と名探偵

20250924(了)

小西マサテル/『名探偵のままでいて』

 第一章 緋色の脳細胞
 第二章 居酒屋の“密室”
 第三章 プールの“人間消失”
 第四章 33人いる!
 第五章 まぼろしの女
 終  章 ストーカーの謎(リドル)
 
  第21回『このミステリーがすごい!」大賞選考結果
     大森望香山二三郎、瀧井朝世
  第22回『このミステリーがすごい!」大賞募集要項
 
  2023年/連作短編小説/ミステリー/宝島社/単行本/中古
  <★★★☆>

このミステリーがすごい!』大賞受賞作なんだから出来がいいはずだよね、
ぐらい。選択の中心理由は実は探偵役が認知症だということ。ならば当然古
風なシチュエーションに近いから、それを上手く逆手にとっているに違いな
い。更にその認知症というのがレビー小体型。まだ施設で頑張っている100歳
を越えたオフクロがまさにこの認知症を患っているのとも無関係ではない… 
 
6章の連作短編集。応募作だからどこかに発表されたものじゃない。だから
こその第一章で、ここではミステリーはその匂いを少しさせるだけで、大半
は猛烈に教養豊かな探偵役たる祖父の、半年前あたりから顕著になったレビ
ー小体型認知症の状況説明と、人との付き合いがへたくそな孫の楓(小学校
の先生)が、大好きな祖父をアームチェア・ディテクティヴとして使い、元
気にさせようと図るいきさつを述べることに費やしている。普通はこれだけ
で一章ってことは(弱くて)ないと思う。書き下ろしだからできる構成。
 
レビー小体なるものが蓄積して脳を侵してゆく。通常の認知症と似た症状も
色々あるが、なんと言っても特徴的なのは、緋色に染まった脳(ワタシは見
たことないけどね)が繰り出す「幻視」「幻覚」「妄想」。

        

オフクロのものも、まだ視力が残っているうちからこれらが出始めていた。
それが現実のものじゃないんだとさんざん伝えようとしたものですが、今や
視力もゼロ。それでも頭の中で厳然と見ている幻視を否定してもいいものだ
ろうかと考え、調子を合わせるようになりました。
専門家の意見も、それでいいとのこと。調子を合わせているうちに、つじつ
まが合わなくなってしまうことも時にはあって、それももはやご愛敬。たま
にそれを揚げ足をとるように指摘してみる。ほぼひっかけ。 すると、「なん
でだろうねぇ」などと見えない目をしばたたかせて不思議がったりする。あ
れっとは思うらしい。ただ翻意はしない。昔の世界に戻りがちだが、想像以
上に普通の感受性が残っているし、思考ができるのもわかります。
経験の範囲内なんだろうが、頭の中であちこちに自由に行って、紡いだ物語
や状況を話す。昨日会ったことは覚えているくせに、昨日どこそこへ行った

んだけどね・・・昨日ダレソレが来たんだけどね・・・などと語り始めるこ

と度々。

 
戻りまして・・・
さて、楓の祖父は、博覧強記や論理的思考を発揮できるかと思うと、過去や
妄想の中に沈み込んで行って取りつく島もなくなる。元気でないと探偵役は
できない。しかし、現実世界に戻ってくると、幻視・妄想していたことを、
それが現実ではないと認識していたりするのね。作者の創作上の「美化」か
都合のような気がしないでもないのですが、経験や知識もきっとあるのでし
ょう、文句を言うところじゃありませんし。
第二章からは謎解きです。
そんな覚醒しているような時を見計らって、楓は祖父に不可解な謎を(自分
の解と共に)投げかけてみる。その気になった祖父はたばこ(ゴロワース)を所
望する。
前置きが長くなったんで、あとは紹介だけ。
 
第二章 小さい割烹居酒屋店のトイレの中での密室殺人です。客皆がテレビ
のサッカー観戦に夢中になっているさなかでの事件。
第三章 楓の友人で、祖父が校長をしていた小学校に勤めている女性教師か
ら相談を受ける。赴任一年半のマドンナ先生が、夏最後のプールの授業のお
しまいに忽然と失踪してしまう。それもなんとプールの中で。落ちは反則気
味。
第四章 6年生の英会話の授業中に、32人の生徒がなぜか33人になる。事前
にホラー話があったことを交えて、楓が祖父のために用意した謎。
第五章 なんと楓の学校の同僚(男)が、河川敷をランニング中に、傷害事
件に巻き込まれ、あろうことか被疑者にされてしまう。(偶然らしい。可愛く
も、なんだか内輪の話ばかりじゃない?) ヒラリー・ウォーの名と作品名が
度々出てくる。事件は解決するが、今度はヤングのあの名作『たんぽぽ娘
と共に、楓のトラウマの秘密の世界に移行する。
アイリッシュの『幻の女』も出てきたんでした。
終 章 ストーカーの謎(リドル)
リドル・ストーリー、つまり結末がないまま終わってしまうミステリーのこ
とで、その話で始まりその話で締める、という構成。しかしその間には、楓
の身にたいそう危険なことが起き、幻視まみれの危なっかしさにもかかわら
ず、楓を助けるという、雄々しい名探偵ぶりが挟まっている。
最後をリドル・ストーリーで締めるというのは、余韻というより、ちょっと
苦しいが、ロマンティックで、赦す!
 
探偵役である祖父の認知症のことを常に意識させる作品。ではあるけれど、
そのシチュエーション以外は謎がホラーめいたり、深刻だったりしない。と
いってちゃんとしていないわけでもない「身近な」ミステリーなので、評は
この時点では読んでいないのですが、こういう感じの「大賞」もあるんです
ねぇ。タイトルに切実な思いが込められているのはわかるものの、受賞は意
外な気がしました。(選評は後で読むことにします)
 
(妄想的「補」)
 コーヒーにはアミロイドβの蓄積を防ぐ効果があるそうな。
 インスタントコーヒーなら一日一杯は必ず飲むワタシは、アルツハイマー
 型認知症にはなりにくいのかもしれませんし、これしきじゃ、あるいはイ
 ンスタントものじゃあ効かないのかもしれません。それに、残念ながら、
 「血管性」にも「レビー小体型」にもコーヒーの予防効果は見込めないん
 だって・・・ 認知症になりたいとは思わないものの、怖がる必要のない
 社会の仕組みができてくれるならいいんだ。しかし・・・
 妄想は、強く気にしていたことが、増幅されて出てきがち、それも変にね
 じ曲がって現れる、なんてことがまま起きる。ろくでもないことが出てき

 ても、「その人」のその時点の奥底が出てくるという言い方もできるわけ

 で、なんだか、ぼけるのも難しいねぇ。

 

続編があと2冊出ているとか。
2冊目は続きで、認知症がもう少し進んでいそう。
そして3冊目は完結、、、つまり?