| 九代将軍家重と彼の「口」になった男のお話 |
20250601(了)
まいまいつぶろ/村木 嵐
| 2023年/時代小説/単行本/幻冬舎/中古 |
| <★★★★> |

| 八代将軍吉宗の長男長福丸(ナガトミマル)。幼名など知らなかったが、これが九代 |
| 将軍家重で、詳しくないワタシでも、家重が病気もちというか、ほぼ身障者で |
| あったことは少しは知っている。 |
| 何かの小説だったか、小さい時には病気がちで将軍は無理だろうということだ |
| ったが、長じてからは実は少々障害は残ったものの、いたって普通、むしろ非 |
| 常に利発だったのに、薄らバカのふりをしていたほうが、なにかと都合がいい、 |
| なんていうシチュエーションにしてあるのを読んだように思うが、ここでは、 |
| 右半身不随に近く、左手も震えるので字は書けず好きな将棋もさせない、歩く |
| のも一苦労。小便を堪えられない。(これがあだ名「まいまい」のもと) 時に |
| 切れる。 さらに、声は出るものの何を言っているか、わかる者がいない。 |
| タイトルの語感は柔らかく、小説全体から受ける抑えて穏やかな表現と結びつ |
|
いているかのように感じられるが、めちゃめちゃ辛辣な「あだ名」であり状況 ・・・ |
| ところがある時、同じ年恰好の若者の中に、偶然、長福丸の喋りを理解できる |
| 者がいることがわかる。名を兵庫といい、あの大岡越前守忠相(タダスケ)の遠 |
| 縁のものという。見つけたのは大奥の乳母で、血筋をたどって忠相にたどり着 |
| き、忠相に兵庫を小姓にしてもらえまいかと頼みに来る。 |
| 忠相は大いに驚いて悩むが、結局兵庫と相談の上、それを受け入れる。なんた |
| って将軍の長男、つまり継嗣。あまりの重責であることから、兵庫に何か阻喪 |
| あったりなんかした日にゃあ、ともに切腹!の覚悟で進める。 |
| 兵庫の報告で、長福丸が実は頭脳明晰で、記憶力に優れ判断力もある。切れる |
| ことはあっても、白目視や蔑まれのつらい状況や立場に、よくもここまで堪え |
| てきていたものだいうことがわかり、このことも忠相の決心につながる。なー |
| んていうのが始まりの大雑把なところ。 |

| 長福丸は若君家重となったが・・・ |
| こんな出来損ないの長男に第九代を任せて良いものかどうかということで、「廃 |
| 嫡」や次男坊推しの考え方の勢力とどうなるか。 |
| 吉宗自身も決めかねている。が、能力だけでなく「運」なんてものも重視し、し |
| っかり見定めようとしている。自分の血筋のためには、うんと厳しい。諜報員み |
| たいなの(ああ、隠密とか御庭番やね)まで使う。 |
| さて家重は「若君」扱いになることでとりあえず継嗣扱いにもなり、京都の公家 |
| の家から娘が娶あわせられるが、事情を知らない彼女比宮(ナミノミヤ)と、行き遅 |
| れたためのこのこ大奥までついてきてしまった侍女幸(コウ)、この二人の当惑の |
| 行方、夫婦としての行方・・・ |
| そういった思惑や当惑に様々な人物、主に幕閣たちが絡んでゆく。 |
| もちろん「政」も絡まないはずはない・・・ と思ったが、そうでもないのね。 |
| NHKの『べらぼう』で老中を務める田沼意次は、このあたりでは、頭は切れる |
| ものの、まだ小姓あがりぐらい。もちろん老中に上ってゆきます。 |
| 要は、吉宗の後を、身障者である家重が廃嫡されず、政争や恨みつらみではな |
| く、様々な思いの重なり合いの結果、第九代将軍となるかということについて |
| 描かれて行く。そしてもう一人の主役、家重の常にそばにいて、家重の「口」 |
| になること(通詞/通訳)に徹する自制の塊のような忠光(兵庫改め)の働き。 |
| その「目」にも「耳」にもならないありようの途方のないストイックさ。 |
| 実際にはこの二人に危機は何度かあるんだけどね、これが妙に落ち着いたとい |
| うか、まるで騒ぎ立てることなく語られてゆく。最たるものは郡上の「箱訴」 |
|
ぐらい。もうばれてるでしょうけどね、この二人のマッチングと絆こそ、この 物語のキモ。 |
| 司馬(遼太郎)家の家事手伝いをやっていた京大出身の作者! だからどうこ |
| うということは、ワタシにはわかりませんが、司馬遼太郎と関係なくはないと |
| 想像はしますね。 |
| 帯の惹句のような落涙はせずじまい。書かれなかった歴史の一頁としてまるで |
| 「記録」(この言葉はパクリです)であるかのように楽しませていただいた、 |
| という感じです。 |
| 視点を変えた(中で述べた「御庭番」です)一種の続編があるようです。 |
(補)家重の障害について初めに触れた時、読んだと書いたのは、沢木耕太郎
さんの新聞小説『暦のしずく』でだったと、なんとなく思い出しました。
自分の関連の記事として載ってきていたので、、、記憶力は間違いなく衰
えてきているんですねぇ。ま、しょうがないことです。