休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

短編小説集『死神の精度』

話のズレやすれ違いの妙味 これは楽しい!

ACCURACY OF DEATH

20250503(了)

伊坂幸太郎/『死神の精度』

 (1)死神の精度
 (2)死神と藤田
 (3)吹雪に死神
 (4)恋愛で死神
 (5)旅路を死神
 (6)老女対死神
 
 2005年/短編小説集/文藝春秋/単行本/中古
 <★★★★△>

冷静さと、時たま見せるむかっ腹の混ざり具合が抜群だった、大好きなエッセイ
スト・カヌーイスト野田知佑さんの古い未読本(漕ぎおろしエッセイというシリ
ーズの一つ)を、珍しく行った中古屋で二束三文の安売りコーナーに見つけた時、
近くにこれもたまたま並んでいた(伊坂のものはほんの少ししか読んだことがな
い)。偶然新聞でこの伊坂作品の文庫の紹介記事が載っていて、興味を持ったばっ
かりだったものだから、記憶にもしっかり残っていてね、思わず一緒に掬い上げ
ちゃったのです。近頃ほとんどやらない行為!(共に文庫でなく単行本)
 
(1)死神本部から指示を受けて「死神の仕事」をやるやつがいる。人の姿をし
ている。いくつか特殊な能力を持つが、要は対象になる人間が寿命前に「死」の
対象になっている。この人間に接触して、「死」でいいのか、今回は「見送り」
にするかの最終報告を一週間以内にするのが「仕事」。その人間にも状況にも興
味はない。とか言いつつ、結構「人間的な反応」に興味を覚えたりする。
で、その通りでよければ「可」と報告すれば、その人間は8日目には死ぬ。どん
な死に方をするかは末端であるパシリ死神にもわからない。ただ「死」を見届け
る。そこまでが仕事。同僚もいるんだ。
(ええ?同僚だぁ? これが無数にいそうなのね、当然かもしれないけど) 
人間界でのこの死神の名は千葉という。毎回(話)違った風体の人間として現れ
る。妙なことに人間のことはよくわかっていない。当然ながら死なない。食べる

必要もない。食べても味はわからない・・・同情も畏怖もない。なぜか「音楽」

好き。

 
さて、初めは、実に冴えない若い痩せて背の高めの女。大会社の片隅のクレー
ム処理係にいる。見かけ同様能力も何もない。自分の生をはかなんでいる。興
味を引くのは(って、千葉は興味を持たないが)、このところ実にしつっこいク
レーム男がいて、なにがなんでも彼女にのみクレームをぶつけてくる・・・
すっごく人工的な、すれ違い話の妙味とでもいうべきものなんだが、抵抗なく

スーッとエンディングまで連れて行ってくれるのがよかった。(当篇が賞を獲っ

た由)

 
以下、ざっと記すと・・・
(2)は兄貴分の仕返しをすると決めているが、妙に冷静なヤクザの話で、その
死生観に死神は興味めいたものを持つ。音楽はストーンズ
(3)雪に閉じ込められた山の洋館に、偶然とは言えそうもない、いかにも古め
かしいミステリー風に集められた人間5人、プラス死神千葉。
(4)恋愛論議が面白い。死神(千葉)にはなかなか理解が難しいところも。
(5)人生上の仕返しをするつもりの殺人犯である若いチンピラと死神との十和
田湖、奥入瀬への道中、とんちんかんながらも会話が成立して行くさま。音楽
はバッハの無伴奏チェロ組曲
(6)古い美容院をやっている70歳位の女。彼女の周りに「死」が多かったため
か、「千葉」は半ば見抜かれる。女は千葉に不思議な頼みごとをする。エンディ
ングは胸を衝かれる。まごうかたなきストーリーテラーだなあ。
 
ジャンルとしては、やっぱりミステリーに入れざるを得ないでしょうね。『この
ミス』で見かけたような気がする。もう20年くらい前なんや、、、
さすが名手と言われるかた。いずれもページターナーで、話のすれ違いが魅力。
縛りの多いシチュエーションからくるものだろうが、それを踏まえてのエンディ
ングの余韻がすばらしい。こんなに楽しめる短編集だとは想像しなかったです。
ところで、参考・引用文献がおしまいに3つ載っています。一つはワタシも知
っている本。一つは映画好きなら知っていそうなゴダールの『男と女のいる舗
道』で、この台詞を引用しているそうです。ワタシは映画好きにあるまじき、
かもしれませんが、ゴダールはほぼほぼ知りません。それはともかくとして、
この一篇一篇が映画でも観ているような気にさせられましたね。カバーには映

画化されたものが一つ載っていますが、出来はどうだったんでしょう・・・

文章を読みながらの想像力や空想力のほうが合いそうな気がするな。

 
一般的には、文庫化されると、単行本はやたら安くなるんで、それが狙い目。
といっても、ちょっとね、かさばるのが難やけど・・・