休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

櫻田智也/昆虫短編小説集『蝉かえる』

20250121(了)

櫻田智也/『蝉かえる』

(1)蟬かえる
(2)コマチグモ
(3)彼方の甲虫
(4)ホタル計画
(5)サブサハラの蠅
  2020年7月/短編小説集/東京創元社(ソフトカバー)/中古
  <★★★☆>

表題作の伏線回収が見事/昆虫たちがもたらす一瞬の叙情/ほどよい長さ
とどんでん返し・・・ なんてね、殺し文句でした。
昆虫からのぞく、人生、社会、環境・・・ なんてぇのもそう。
 
(2)コマチグモ
魞沢泉(エリサワ セン)という探偵役と言えなくもない飄々としたキャラが「事件」
に絡むのはほんの少し。あるかないかわからないぐらい。
通報があって救急車が通りかかると、通報の目的地のちょっと手前の交差点で
中学生の女の子が倒れていて、バンの運転手その他がいる。「その他」の人に
救急車は止められてしまうが、そのあとすぐに別の救急車がやってくることが
わかって、前の救急車は先へ進む。アパートの一室で30歳台らしい女性が倒
れている。同棟の住人が気づくことになり、ついで警察が呼ばれる、、、とい
うのが導入。
完全にミステリーなので、説明することはできないが、このシリーズは、肝の
ところで魞沢というとぼけた感じの青年が、昆虫の話を使ってストーリー上の
キャラと絡むことで、事件を(結果的に)解決に導くというスタイルをとって
いるよう。最初に読んだのがこの篇だったので、こんな風な表現になりました。
 
わりと昆虫好きなもので選んだ短編集です。ほだされた解説があったのです。
この篇で出てくるのは、アキアカネとコマチグモ(ああ、クモ昆虫じゃありま
せんが)。ストーリーも読後感もさらっとした感触のものながら、この昆虫た
ちのストーリーへの絡みつき方は、なんというか、唐突で浮いていて、あえて

言うなら強引なこじつけと紙一重。そして、それはそれは特異なもの。昆虫愛

というか、その使われ方がおもろかった。

 
(1)蟬かえる: ここでの虫はニイニイゼミ。田舎の伝承譚とてんこ盛りの
屁理屈。(関係ないですが、岩にしみいる蝉の声は、ニイニイゼミ以外にはあ
り得ない。もし実はアブラだったなんてったら、がっかりもいいとこ)
 
(3)彼方の甲虫: 虫の名としてはスカラベ。糞虫というよりフンコロガシで
す、多分。ダイコクコガネなどの日本の糞虫は残念なことに糞を転がさない。
奈良公園の奴らがみな転がしたらオモロイのにねぇ。切り取って丸める必要も
(それほど)ないし・・・ハハハ。
 
(4)ホタル計画:若き魞沢と込み入った話。虫はホタルですがその種類は出

てこなかった。ここでは、虫じゃなく、なんと極寒の地北海道にゼブラフィッ

シュ、というのがミソ。

 
(5)サブサハラの蠅・・・ サハラ以南のハエ。これは少し書いてみます。
昆虫はツェツェバエ。こいつが原虫を媒介して起こす病気は「アフリカ睡眠病」
(WHOすらも見放した《顧みられない熱帯病》)。原虫の名はトリパノソー
マ・・・ 魞沢と学生時代に友人だった江口は開業医をやめ、<越境する医師
たち>(こりゃ架空の団体、まあモデルは見え見えだけど)での活動をしなが
ら、この病気の研究をしていた。これが話題に上るのは、彼らは別々にドバイ
経由で帰国する時、たまたま同じ機に乗り合わせ・・・ 江口が持ちこんだ蠅
の卵を税関で見とがめられるのを魞沢に見られていた。そのしばらくの後魞沢
が江口を訪ね、会話が始まることで明かされるから。ほぼ会話だけの話。
ツェツェバエは本来は卵を産まない、いわば卵胎生。雌雄どちらも哺乳類の血
を吸う。魞沢は何かを嗅ぎ取ったのだろう。江口はなにかをたくらんでいると
・・・ 南スーダンの紛争や窮状にも絡みます、、、 (3)のスカラベの話
とはほんのちょっとだけつながりがあります。これ以上は書けません。
語り部はむしろ江口のほう・・・ そういえば初めに紹介した(2)も語り部
は魞沢ではなかったんでした。
ああそうだ、WHOと書いてみて思い出しました、トランプさん、脱退に署名
したんでした。やれやれ。読了日はちょうどトランプさんの就任日だったの
です。 
 
結果的には、最初に読んだ(2)が、主役の絡みが少なかったにもかかわらず、
一番面白かったような気がします。
(5)だけはかなり直接的に虫が絡みますが、ぞわぞわ出てくるなんてことは
ないし、それ以外でも虫が蠢きまわるなんてことは全くありませんので、虫ア
レルギーの方も大丈夫・・・ とても読みやすく、ミステリーを楽しみました。