休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

沢木耕太郎/『暦のしずく』(新聞小説)

20240922(メモ)

沢木耕太郎/『暦のしずく』

  歴史小説朝日新聞be」(掲載;2022.10.1~2024.8.31)
  <★★★★>

朝日新聞の土曜別刷り「be」に約2年にわたり掲載された。
江戸中期の講釈師、馬場文耕を主人公とした時代小説です。
仕事場に行くときに持って出る古い肩掛け鞄に抛りこんでどんどん溜まって
しまっている新聞の切り抜きの束(未読分)の中に、連載を終えた沢木氏が、
この小説を書くきっかけになったことをしたためた記事がありまして、ふと

気付いて読み、即、感想文書くのを完全に失念していたことを思い出しまし

た。

しもたぁー、ですわ。
 
様々なわけあって武士をやめ、江戸下町に住み、講釈師を始めた文耕が、市
井の人々から幕閣の頂点に近い人まで付き合いが広がり、ついには将軍家重
の真実を目の当たりにするまでになる。
講釈の内容も、時間はかかるが、徐々に社会的発言が多く含まれるように変
化(成長)してゆく。
途中からは、郡上の農家の直訴に関心や同情を向け始めることになり、読み
本や講釈に反映されるようにもなる。覚悟を決めて直訴に及んだ農夫たちと

知り合うことにもつながってしまい、最終的には扇動者の烙印を押されるに

至る。

 
さほど長い物語ではなく、歴史的な証拠に当たるものも残っているんだろう
が、会話はすべて沢木さんの創作によるものなわけで、いい会話が多かった。
付き合いの広さ(これも大半創作でしょう)がわくわくさせるのみならず、
「業界人」とのやり取り、読み本や講釈に関する様々な蘊蓄などもとてもテ
キパキと語られ、退屈することが全くありませんでした。

かつては剣の腕もたったので、それが発揮される場面もいくらかありました。

うれしい気がしたのは、エンディング。沢木さんの気持ちやね。

 
沢木さんが郡上へ行ったのは、もちろん郡上踊りが目的じゃなく、白山文化
博物館に行くためだったそうだが、そこで郡上一揆の資料を見ることになり、
若い頃からから知っておられたという馬場文耕とつながったもののよう。そ
して後押しは、タクシーの運ちゃんのひとこと。そんな寄稿でした。
 
このような時代物(歴史物と言った方が正しいかも)は初めてでしたので、
新鮮でしたが、沢木さん自身は時代小説自体初めてだったとか。
粘らない、とてもきちっきちっと紡がれる言葉や文章がわかりやすく且つ心
地よかった。なんだかファンになった気分です。ワタシは、気にしつつも

沢木はこれまで何一つ読んだことはありません、『深夜特急』ですら。

(それこそ20年以上も「リスト」に入れてあったようなものなのに)

それにしても、2年も読んだんですねぇ。終わっても、2年もたったなんて
思えなかった。そしてちょっとだけほっとした感じ。

 

単行本が出たらどんな評価がされるのか全くわかりませんが、ワタシは推し

たい。
(ところで新聞の束、どうしよう)