休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

窪 美澄/『夜に星を放つ』

20240417(了)

窪 美澄/『夜に星を放つ』

  (第167回直木賞受賞作から三篇)
(1)真夜中のアボカド
(2)真珠星スピカ
(3)星の随に
    令和4年10月 オール読物 九・十月合併号/小説

普段手に取りそうもない雑誌を手に入れました。こんなデカイ雑誌に目を通すな
んざ無理な話。でもまあせっかくなので直木賞受賞本の5篇中、3篇が載ってい
るというものを鑑賞。
 

(1)真夜中のアボカド

ちょうど、コロナの真っただ中なんだ。

双子の妹の死とその彼氏、マッチングアプリの彼、そして星。
ぬるま湯的な感性かもしれない、苛烈なもんじゃないけれど、当たり前のように
他者との関係に悩みつつ、悲劇を起こさずに淡い光を見つけて行くという感じ。
こんなんでええんか?ってぐらい、なんだか温い話が、グダグダしつつもちゃん
と前を向いて人生を肯定するとでもいうふうに締めくくられる。上品な印象です
ね。                                                                                                     <★★★☆>
(1)の次に来るのはなかなか難しいと心配したが、無用でした。
 

(2)真珠星スピカ

父親の仕事の関係だかで転校した中学生の女の子。お巫女さんのような子がリー

ダーのグループに散々いじめられて、とうとう保健室にしか登校できなくなって
しまっている。ところが母親が交通事故で死んでしまい、普段話すことも少ない
父親と二人暮らしになり、二ヵ月を越えた。
何故か母親の幽霊が出てくるようになる。家の中だけ。彼女はいじめにもいたっ
て冷静だが、母の幽霊にも冷静。その母が見守るだけでなく、日常生活上の指図
のようなこともする。陰湿ないじめは続くが、保健室登校は止めない。会話が少
ない父にはいじめも母の幽霊のことも言えない。話は誰にもしないものの、ほか
に助にならなくもないのが、隣に住むこの学校の男の先生(彼女を小さい時から
知っていて、優しいが少々鈍感)と、保健室の女の先生。
いじめっ子のリーダーが、流行っていたらしい「こっくりさん」を始めたことで、
がらっとお話が動く。
彼女の広い意味での成長譚ではあるのだけれど、その認識の進み方、進め方がな
んとも面白い。その成長の意味するものの嵌り方は、ちょっとできすぎのように
も思うけれど、楽しいストーリーテリングでした。       <★★★★>
 

(3)星の随に

「ほしのまにまに」って読むんだ。知らんかった。これもコロナの真っ最中。

小学4年生の男の子から見た家族模様。父と母が離婚し、どういう事情か父親と
継母と暮らし始めている。その継母に子どもができて、継母は子育てに疲れてい
いて、昼間、眠ってしまうことが多い。父は昼間は喫茶、夜はバーになる店をや
っているが、コロナ禍で夜は開店休業状態。会いたい本当の母親はわりと近くで
一人暮らし。看護師のよう。非常に勉強ができる友人がひとり。なかなか物知り。
継母の疲れが激しくなったためか(?)、塾から帰ると、マンションの扉ののチ
ェーンが外されていなくて入れないいことが続き、そのことを父にも言い出せな
いナイーヴな子。エントランスで時間を潰すうち、知り合いになった婆さんの部
屋で時間を過ごしてしかるべき時間を待つようになるが、以前の父母と同じよう
な激しい言い合いが再びおこり・・・といった筋。ごく普通の子どもの家庭内に
関する感情や気持ちのうつろいを、起きる事柄につれて書き記してゆくだけとい
った風情。実は非常に計算されたストーリーのバランスの上に、この子の気づき、
認識の深まりやある種の成長を重ねていく。平易な文章だから、いかにも子ども
の感性っぽく感じられる。でも実際は大人が考えた子どもの感性のはずなわけで、
まあしっくりこないところがあった。(2)ではそういう引っ掛かりはなかった
のですけどねぇ。子どもはなかなかむずかしい。       <★★★☆>
 
 
著者の受賞の対談やエッセイ、作品解説等は読まずじまい。
3篇を読んだあと、選評を覗いた。その中から少し書き出してみると・・・
 
・・・すでに十分な手練れ
・・・そのぬるい毒と醒めた停滞は、現代を生きる大人の鑑賞に耐える
                              (高村 薫)
・・・その一つ一つがゆきとどいていて後味が良い

・・・コロナとマッチングアプリという“生モノ”を扱いながら、品があり文章に

   自然と溶け込んでいる(これは(1)やね)

・・・誰もが他者との関係に悩むのは共通している・・・悲劇が起きるわけでは
   なく、最後にかすかな希望がうまれる
                             (角田光代
 
大賞を得たのだから当然とはいえ、この一種緩い、鮮やかとは言い難い短編集
が、ドキドキワクワク、時にはヒリヒリズキズキのエンタテインメント系の並
みいるプロフェッショナルたちを抑えて受賞した理由が、いまいち理解できな
かったですねぇ。好きな方も多いに違いないけれど。ま、ほかの候補作も知ら
ないんで、こんな話なんの意味もありません。意外な受賞だと思われているん
じゃないかなと、ちょっと思っただけです。