3曲ともオーケストラ・アンサンブル金沢の委嘱作
20221202(了) |
(1)権代敦彦(1965-)/愛の儀式 ― 構造と技法― 作品70 18:02 |
宮田まゆみ(笙) |
(2)猿谷紀郎(1960-)/ときじくの香の実 19:39 |
林英哲(和太鼓)、赤尾三千子(能管) |
(3)一柳慧(1933-2022)/音に還る―尺八とオーケストラのための― 17:15 |
三橋貴風(尺八) |
オーケストラ・アンサンブル金沢 |
指揮:岩城宏之 |
全作品 2002年 OEK委嘱・世界初録音 |
ライヴ録音/2002年3月14-16日/石川県立音楽堂 コンサートホール 56:04 |
CD/現代音楽/Ⓟ&ⓒ 2003 Warner Music Japan/邦盤/中古 |
(1)&(2)<★★★△、(3)<★★★★> |
(1)権代敦彦/愛の儀式 ― 構造と技法― sensualな方向かいな、それにしては「構造と技法」というのはヘンか、 |
なんて初めは思ったりして聴いたのですが、どうも違う。 |
作曲者は愛について音と結びつけつつ解説してくれています。7つのシーンに |
分かれていて、 |
1.愛のささやき 2.愛のかがやき 3.愛のはじまり(愛の交唱) |
4.愛による一体化 5.愛の捧げもの 6.愛の教え 7.愛の成就 |
となっている。(・・・) |
スピーカーの音の傾向をいう時、昔、「ドンシャリ」なんていう言葉が出てき |
て覚えてしまった。(今でも使うのかな) ざっくり言えば、上と下、つまり高 |
音と低音がよく出ていて、中音域が足りないことを指した言葉だったと思う。 その感じなのです。 |
楽器をドンとシャリに分けて、小さい音からじわじわと細かいパッセージでも |
ってうごめきつつ、時間をかけてクレッシェンドしてゆくことを何度か繰り返 |
す。長くかかって盛り上がることも、ごく短い山であることもある。 |
楽器の組み合わせが変ってゆくので、音色もいろいろ。単調ではないと思う。 |
「笙」は愛の権化。その独奏者が載っているけれど、笙だけが目立つわけじゃ |
ない。最後だけはデクレッシェンドで、消え入るように終わる。 |
いつでも楽しめるかどうかというと、ちょっと怪しいけれど、だんだん耳に馴 |
染んできました。 |
(2)猿谷紀郎/ときじくの香の実 |
・・・天に響く笛の音、心を奮わす太鼓の音、この両者がオーケストラの音 |
と融け合ったとき、我々を幻の霊果、ときじくの香りが満たしてくれる・・・ |
などと「記紀」にあって、昔から不老不死を願う幻の聖樹の実ということらし い。 |
繊細なオーケストラサウンドの中に、古風な横笛の音(能管)といささか単調 |
な和太鼓が入り込んでいる。幻想譚ふうな、あるいは妄想的な音楽で、日本人 |
には馴染みのある感じですね。たとえば、琵琶はないけれど、耳なし芳一の話 |
なんかにも合いそう。 |
中盤ではあの林英哲の和太鼓乱れ打ち、みたいなのがありました。聴かせどこ |
ろの一つだったんでしょう。協奏曲で言うところのカデンツァに当たる。 |
和太鼓協奏曲やね。でも、ここでの和太鼓は一つだけのはず(ジャケット写真 |
がそうでしょう)。微妙な音の揺らぎはあっても、音程は基本一つだけなので |
飽きてしまう、、、協奏曲は言い過ぎですかね。決して嫌いなサウンドではな |
かったのですけど、好きにもなれなかった。 |
(3)一柳慧/音に還る―尺八とオーケストラのための― |
本命です。 |
3曲ともオーケストラ・アンサンブル金沢の委嘱作。 |
実は10月に亡くなった一柳慧のものをなにかと探したんですが、安いのが |
見つからなくて、やっと見つけたのがこれ。 |
複数の追悼文を読んで、自由を問う冒険家で、非常に守備範囲の広い作曲家 |
兼ピアニストだったなんてことは、初めて知ったぐらい。ジョン・ケージ、 |
ジャズや即興、雅楽、オノ・ヨーコとの結婚、なんてことも。現代音楽のピ |
アニストを務めることが多いことぐらいは知っていました。 |
まとめると、過去へのこだわりの少ない芸術上のアナーキストだったようだ、 |
というのが収まりがいいみたい。 |
こりゃ聴くのもなかなか大変だけど、何か聴いてみるか、と・・・ |
一曲だけですが、ものは試し。サンプラーとしてはどうなのか、なんて知っ |
たこっちゃない。 |
作曲者は影響を受けたらしい詩人の言葉なんぞひいているが、いみじくも自 |
分で書いているように、「読み替え」やね。 |
所謂和風な感じ(尺八)とバタ臭い感じとがせめぎ合ってるのか、融け合お |
うとしているのか、どこか日本人の宿命と親しみを感じました。 |
とにかくあっさり味じゃない。楽器ごとに独奏を聴かせるが、全体としては |
室内オケにもかかわらず緊密で、和風の風通しのいいすかすかした感じはな |
く、かなりカロリーが高い。そこらへんが面白い。気に入りました。 |
色んな試みをされ、仏教(音楽)にも近づかれたようだけれど、その仏教っ |
て、日本でのものじゃなく、インドとかアジアとかのご本家のほうのものな |
んじゃないかなぁ、なんて思いました。 |
厳密な構造の楽曲の中に、雅楽の混沌を忍ばせたり、指揮者がタクトを振る |
のをやめ、演奏者の自由に任せる部分を織り込むなんてことをやったことで |
も知られ、そういう部分は、録音されてもまずもって真価がわからない気も |
する。(そういうのって、作曲者や演奏家だけでなく、聴き手にもそれなり |
の知識って、必要とされるんじゃない? そうでもなくて、ただ聴けばいい の?そんなもの?) けれど、ま、なにかまた探してみることにしましょう。聴く機会が来るとい いね。 ともかくこの(3)は当たりでした。 |
80年代中盤、金沢に4年ほどいまして、当時は非常に忙しかった。初めての |
管理職、小さい子どもたち3人、死期の近いオヤジの大阪への見舞い、など |
など。遊びはたまのゴルフ、子連れでの映画、岸壁や河口での釣りぐらいだ |
ったでしょうか。釣った魚は必ず食べてました。ああ、レンタルビデオ屋に |
は行き始めてましたね、たしか。コンサートにはほとんど行けていなかった ように思う。 |
調べてみるとオーケストラ・アンサンブル金沢は1988年からだから、このオ |
ケは聴けるはずはなかったわけですが、よしんば、もしできていても、聴き |
には行けなかったでしょう。 |
このオーケストラ、多分一回しか聴いたことがないと思います。名古屋でだ |
った気がします。指揮は同じ初代音楽監督の岩城さん・・・ |
岩城さんの本、ニ三冊読んだことがあって、飾らずユーモアたっぷりで、気 |
に入ったものでした。それらよりもっと前の本が一冊、読みたい本の中にあ |
ります。いつか読めますかねぇ、もう読めないかも・・・ |
さて、いつものように脱線して、、、このオケの音楽監督だったこともある |
井上道義さんが、これを書いている今、新聞に連載されてます。 |
ちょっと高慢ちきな感じなので、実はうっちゃってきましたね。もっとも、 |
演奏会で聴いたことはあります。 |
新聞の連載記事によるととてもオモロイ御仁だったのですね。プラス、あの |
お顔の謎がやっと解けました・・・ それに、いかにも指揮者らしい! 毎日 切り抜いてファイリングしています。 |
ワタシ、二十歳前後だったと思うが、井上がウィーン・モーツァルテウム管 |
弦楽団と録音した交響曲集(勿論モーツァルトのもの)が出たのをうっすら |
覚えています。レーベルはスープラフォンあたりではなかったか。ラジオを |
通しても聴いたことはなかったような気がします。 |
で、あと2,3年ほどできっぱり引退する気でいらっしゃる。 |