20221108(了) |
立川談春/赤めだか
(1)「これはやめとくか」と談志は云った。 |
(2)新聞配達少年と修業のカタチ |
(3)談志の初稽古、師弟の想い |
(4)青天の霹靂、築地魚河岸修業 |
(5)己の嫉妬と一門の元旦 |
(6)弟子の食欲とハワイの夜 |
(7)高田文夫と雪夜の牛丼 |
(8)生涯一度の寿限無と五万円の大勝負 |
(9)揺らぐ談志と弟子の罪 |
――立川流後輩達に告ぐ |
(10)誰も知らない小さんと談志 |
――小さん、米朝、ふたりの人間国宝 |
解説 福田和也 |
2015年/扶桑社/文庫//エッセイ/2008年4月の単行本に加筆修正//中古 |
<★★★★△> |
落語は決して嫌いじゃないのですが、少ししか聞いてこなかった。それに、 |
実際に寄席に行ったことはありません。 |
大阪に戻ってから、ようやくちょっとだけCDを借りて聞くようになりました。 |
ブログにも少しだけ感想を載せたことはあります。このごろは再びさっぱり。 |
で、実は談志はほとんど知らない。少し聞き齧ってどうも好きじゃなかった。 |
落語以外の行動や言葉が好きではないのも無関係ではないでしょうね。 |
ワタシが少しだけ聞いた志ん生、圓生、小さん、志ん朝、米朝などの「クラ |
シック」系。談志は、そんなクラシックそのままではダメ、現代とのつなが |
り方をもっと濃くしてゆきたいと考えていろいろ取り組んだ。落語も落語以 |
外もなにかと批判されたりした談志。 |
嫌いってわけでもなかったのですがね。 |
で、なんでこのエッセイかというと、あくまで世評の高い談春を読んでみよ |
うということで選びました。中で談志についてももう少し知ってみようとい |
う気持ちもありました。 |
結果、談志(多くはイエモトというルビ)のことが半分近くといってもいいく |
らいのウェイトで出てきて、ワタシの「フーン」がとても多かった。 |
談春(オレとかボクとかいうルビ)は17歳で北海道から出てきて、よりにも |
よって、落語協会からはボスが破門された異端の立川流に入門。 |
前座4人(談々、関西、談春、志らく)の一人として、普通で考えりゃあり得 |
ないような生活を談志を中心にして送って、二ツ目にあがるまでを描いてみせ |
るという、数年の自伝的なお話、プラスアルファ。 |
弟子になったばかりの若者が、時間割を決め、資料を集め、ひとつひとつ |
自分で考え、覚え、それを談志(イエモト)の前で発表する。発表した者に限 |
って談志は次の課題を見つけるヒントだけを与える。立川流は一家ではな |
く研究所である。研究所であるから飛びきり強い生命体も生まれるが、そ |
の陰で驚くほどの犠牲もでる。実力、能力を優先した本当の意味での平等 |
と自由はあるが、残酷なまでの結果も必ず出る。それが談志の選んだ教育 |
方針である。 |
そうしたことは何度も繰り返し出てくる。 |
前座は毎日食べないと死ぬという現実と闘うが、談志は弟子の生活の面倒は一 |
切みないと宣言しているもんだから、親からの援助ゼロの談春(オレ)は困り果 |
て、特例として新聞配達のアルバイトは認めてもらう。 |
上のことをこなしつつなんだから、こりゃあすごい生活でね、いろいろあって |
ミスもやらかす。そんな時、たまたま談志が言ってくれた言い訳・・・ |
「申し訳ありません。実は新しい配達員がイラン人でして、朝日に向かっ |
てお祈りを始めちゃうんです。日本語をなんとか覚えて間違いは少なく |
なったんですが、事が神様にかかわるので手前共も注意しづらくて・・・」 |
談志がハワイに行くことになったところ、たまたま一緒に談春がついて行くこ |
とになってしまった。乗り込んだ飛行機のアナウンスでバンコク行きとわかっ |
て、さあ慌てた談志、口八丁で扉を開けさせ、乗り換えるために乗ったマイク |
ロバスのようなものの中で、ホノルル行きの飛行機に乗っているべき松岡とい |
うかたと佐々木というかたが行方不明だという連絡が聞こえる。 |
「松岡さんというのは俺だ。今向かってるから安心しろと云っとけ。バン |
コクもいいが、ビザがないと帰されちまう。それは俺の本意ではない」と |
云ってから談志(イエモト)は付け加えた。 |
「お前、佐々木っていうのか。ありきたりだな」 |
これには吹き出す。 |
その後ホノルルに着いてからわかったことには、あろうことか談志とツイン! |
二つあるベッドの上は、談志(イエモト)の荷物で見る間に一杯になった。 |
「荷物のバラシは終ったな。あとは俺が処理する。ご苦労、下がっていい」 |
「師匠申し上げにくいのですが」 |
「なんだ」 |
「僕、師匠とツインなんだそうです」 |
「何? 俺はお前と寝るのか」 |
「すいません」 |
するとポーチから、コロンを取り出して、 |
「トイレのあとは、これを使え。いいニオイがする」 |
と云った。談春(ボク)はコケそうになった。 |
この辺はいたってかわいい。こういう面もあるんだなぁという感じ。このあと、 |
海岸に出るというんで談志(イエモト)が着て出てきた格好というのが、世にもお |
ぞましいもので・・・ ま、これは省略します。この辺は(6)。(8)でひょ |
んな感じで「二ツ目」になる経緯が語られ、(9)では更に少し時間がたって いる。 |
噺家は皆異口同音に、真打より二ツ目になれた時のほうが嬉しかったと |
云う。談春(オレ)もそうだった。前座という個としての自由も権利も認め |
られない状況、ただひたすら寄席という世界で労働力としてしか必要とさ |
れない現実の中で暮らす毎日。それを打破する手段、行動を起こそうとし |
たところで何に向かって歩めばいいのか、誰に認めてもらえば二ツ目にな |
れるのか、一切の方針基準を示さない「協会」という名の組織が落語家の |
集団なのである・・・ |
・・・大丈夫です、耐えてみせます、覚悟しています、何でもしますから |
弟子にしてください・・・ 戦わない、逆らわないという覚悟を持って |
入門する。 |
立川流においては創設当時から二ツ目になる基準が明確にある。 |
古典落語の持ち根多を五十席、前座の必修科目である寄席で使う鳴り物 |
を一通り打てること、歌舞音曲を理解していること、講談の修羅場を読め |
るための基本的な技術を積み理解すること、であった。 |
立川流の活動ったって、所詮は談志一門という少数派で、談志の価値観にゆだ |
ねて統一、連帯を保っているだけ。他の流派も同じ。皆を立川流でやることな |
んぞできやしないし、協会をまとめようとするカリスマもいないし出てもこな |
い。そんなもんじゃないか、と言っているよう。 |
この(9)によれば、どうやら談春さんは40歳ぐらいになって書いているよ |
うで、弟子もいて、立川流としての自分の立ち位置や教え方を、けっこう高飛 |
車な感じに述べている。弟子に言っているんだろうけれど、まあそんな世界な |
んだなあ、という感想になっちゃいますねぇ。 |
この頃には、二ツ目の基準はもう少し明確に、かつ厳しくなったそうです。 |
テレビのドキュメンタリーで談志は彼の家ともども見たことがあって、その奇 |
妙な人となりについちゃぁ、どう言えばいいのがよくわからないという印象の |
まま今に至るのですが、このエッセイの中の談志は、ますますわかりにくく、 |
そして結局よくわからないまま終りました、残念ながら。 |
その点談春さんの様々な頑張りやバカな行為の一部始終は、目いっぱいの自責 |
や後悔などとともに、ここにはこれでもかと書き連ねてあって、談志(イエモト) |
の怒りやそれを通り越したアキレの伴い方がけっこう面白い。師匠のことは当 |
然うまくぼかしているんでしょう。 |
池井戸潤原作の銀行ドラマで顔を見おぼえている談春さんのイメージとは大分 |
違ってました、あたりまえですけど。 |
最後の(10)では、ずっと時もたって真打の試験を受けるにあたっての経緯を、 |
『小さん/談志の「因縁的経緯」』と絡ませることにする。いささか演出過剰 |
とも思えましたが、とてつもないアイデアであることも確か。博打打ちが博打 |
を打ったとはいえ、談春さんの緊張はよく伝わってくるようでした。 |
最近、新聞で談春さんの独演会の宣伝を何度か見かけました。 |
今や、チケットを手に入れるのが最も難しい噺家、なんてカバーに書いてあり |
ました。新聞広告にあった値段を見てビックリ。こんなにするものなんですね |
ぇ・・・ |
これは5000円。ホールがでかいからかな。
上に書いているのでは、15000円でした。
新聞の連載の中に、偶然だけれど、ちょうどいい内容のところがありました。 |
締めになるかどうか、、、これを最後に載っけて、おしまいにします。 |