休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

タンスマン(1897-1986);交響曲集 Vol.1

20221018(了)

タンスマン(1897-1986)

   交響曲集 Vol.1-The War Years

Alexandre Tansman; Symphonies Vol.1

  交響曲 №4(1936-39) 21:13

               ①8:26/②5:00/③7:36

 交響曲 №5(1942) 26:26

       ④6:50/⑤5:31/⑥5:41/⑦8:11

 交響曲 №6 ‘In Memoriam’(1944) 20:14 premiere recording

       ⑧6:47/⑨.3:08/⑩3:56/⑪6:24

  オレグ・カエターニ指揮/メルボルン交響楽団
  メルボルン合唱団(⑪)
  録音:2005年9月、豪、メルボルン、モナシュ大学、ロバート・ブラックウッド・ホール
  2006年/CD/管弦楽/Ⓟ&ⓒ Chandos Records(Super Audio CD)/中古
  <★★★★☆>

なんとも素敵な交響曲集で、この前の分と、この後の分が出ているほか、室
交響曲ふうな1枚もあるみたい。まあおいおい。
それにしても、この素敵さ、何と表現したらいいのか、正直わからない。音
色だけが好きというわけでもないんでしょうが、悩ましい。以下、うだうだ
書いてみます。
 
このスーパー・オーディオCDという録音のせいもあるのか(いや、きっとあ
ると思うが)、非常にふっくら、ふんわりしている。その柔らかく繊細な弦

で始まるこの4番。いいホールでもって、オケのすぐぞばで聴いているみた

い。

交響曲 №4;

アダージョで始まっていくつかの曲想、テンポを経て、第一楽章らしく盛

り上がって終る。勇ましいというんじゃなく、淡いロマンティシズム。
②Tranquillo。要するに静かなアダージョで、濃厚でないあっさりした甘味が、
通り過ぎる。割と単純な楽章。5分があっという間。
③第4楽章がなく、楽し気なアレグレットで終わり。こういうところは新古
典と言われてしまうんだろう。木管によるリズミックなアンサンブルが頻繁
に出てくる。かなりカラフル。オーケストレーションのうまさがよく表れて
いる気がする。都会の、、、パリじゃなく、アメリカかなぁ、街の雰囲気だ

ろうか。深いものじゃない、ファンタジックな美しさが心地よい。力まない

盛り上がりでスマートに終わる。

 

交響曲 №5;

4番でアメリカの街と書いたけれど、この5番のほうこそが、アメリカ時代

の代表的な作品らしい。
アルバム全体が「The War Years」とある。タンスマンで今まで聴いた曲で戦
争を思い起こさせる曲はほとんどなかったと思うけれど、この5番の始め④
なんかは、あるいはそうかもしれない。レントからどんどんテンポが上がり、
強奏が増す。でも、あられもなく叫ぶようなことはない。ミヨーのような音
がセーブをかける。
アメリカでの余情や中西部のまどろむような・・・素敵なインテルメッツ
ォ。途中で少し激するも、過ぎた嵐のように忘れてしまう。
⑥どこかで聞いたことのあるような音色が混ざるスケルツォ。このリズムは、
どれもこれもストラヴィンスキーで聞いたもののアレンジみたいな気がする
なぁ。
⑦フィナーレは管の咆哮と牧歌みたいなのとが交互に出てきて、ひとまずは
落ち着く。それからは曲想が目まぐるしくどんどん入れ替わって行く。フー
ガ風なアメリカや、ショスタコーヴィチの戦争の匂うスケルツォみたいなも
の、、、でもね、大騒ぎにはしないで、フッと力みを解いて終わる。独特。
 

交響曲 №6;

⑧低く柔らかい不協和音から始まって、連想するのは、たぶん誰もが「春の

祭典」「詩篇交響曲」その他のストラヴィンスキーだろうと思う。ふんわり
と、なんともうまくデフォルメするもんだなと、舌を巻く。
もっとも、サブタイトル ‘In Memoriam’というのは、いや増すフランスへの
思慕を指しているようなんだけれど。でもまあ、ストラヴィンスキーはここ
にいる。

⑨弦楽だけの楽章で、鋭い音を挟みながらも、快活さが心地よく、後半のカ

ルテットによるレントも爽やか。

⑩ほとんど続いて奏され、第二楽章のビジーな調子を持ち込む。フルオケに
戻っている。密やかで尖って不穏さがある。大事な部分のような気がする。
フランスのオーベルニュの歌で聞き覚えのある民謡のメロディで締めくくる。
⑪和声もメロデイも、どうもストラヴィンスキーで聞いたような合唱で始ま
る。歌詞の翻訳がないので意味は全くわからない。横文字を眺めていると、
第二楽章⑩の追伸のようなもんじゃないかとか、無益な戦争を悲しんでいる
んじゃないかとか書かれているみたい。そんな気は全然しない。カッコいい
し極めて美しい。

       (マンガっぽいストラヴィンスキーの隣にいらっしゃる)

ある鑑賞記によると、指揮者がロマンティックな面を上手く表出できていな
いんじゃないかという。なるほどね。だけれど、そもそもそんなにロマンテ
ィックな面を強調しなくちゃならん曲たちかね?
 
イギリス風な叙情、フランスの素敵な和声、R・シュトラウスで聴かれたよ
うな木管アンサンブル、もちろん色んなストラヴィンスキー・・・それに、
アメリカっぽい音も確かに混ざったような気がしました。
欧米の当時の音楽をできるだけたくさん吸収して、自分なりに消化し再構成
してみたといったふうなので、「個性は?オリジナリティは?」と訊きたが
る向きも多かろうが、こんな見事な咀嚼って、そうそうはあれへんで!
そう、例えば、全体を覆っている独特のファンタジックなムード、なんての
は、どうだろう、個性なんじゃないかなぁ。
 
いずれも素敵な曲でした。ワタシの場合、音色が先かなぁ。
録音もよかった。シャンドスがオーストラリアまで出向いて録ったもので、

しかも Super Audio CD だってのも効いているんだ。(メルボルン響って、

岩城宏之が常任指揮者をやっていたオケですよね)

モロ好み。これほど「瑕のない好み」はあまりないですね。