20200417(了)
岸 恵子/ベラルーシの林檎
廃墟からの旅立ち
祖国なき人びと
ユダヤとの出逢い
マサダのシラノ
二つの別れ
パリ発、衛星放送
死海のほとり
マサダ砦
ガザの投石少年
約束の地
フランボワイヨン
ヨーロッパ発、テレビ朝日
黒い狂気
ワルシャワ発、聖ペテルブルク行き
ベラルーシの林檎
グロドノの嘘八百
国境が動く
琥珀海岸の日没
失われた祖国
遠い日本
不思議の国の蟻巣
「芸能界」というゲットー
廃墟から四十八年
あとがき
巻末エッセイ 大岡 信
1996年6月/朝日文芸文庫/エッセイ/中古/(単行本1993年11月)
<★★★★△>
再読。めずらしいことです。多分20年近く前だったかな。
娘にあげてしもたんやから、手元にはない。でも読みたくなったんで、ただ
同然の古本を手に入れて、夜な夜な(といっても毎夜ではないけれど)、
眠る前に一篇読む、みたいな、まあこのごろ普通の読み方で、懐かしく読了。
きっかけは、やはり女優の高峰秀子(古い旅行記)でした。
再読なのに、その対比や中身の岸だから面白いルポルタージュ(ルポ自体の
ことや中東情勢的なこと)のことなど、いろいろメモが溜まりましたが、彼
女との接点もいろいろとあった大岡信の巻末エッセイを読んでしまった。
たぶん読むべきやなかったネ、こんなに微に入り細を穿って見事に解題され
てんじゃ、メモなどつなぐ気が失せたワ・・・、いや自分の言葉で書けばい
いんだよと言われても、そらぁちょっとつらい。
大岡が長いエッセイの締めくくりに、この本じゃなく岸の初期の本『巴里の
空はあかね雲』の帯文として書いたという自身の文章を再録している。『ベ
ラルーシの林檎』を読む人に、岸がいかに一貫した生き方を貫いているかを
知ってもらいたいためだという。
この本も確か読んだが、ほぼ忘れてしまってます。その帯文からおしまいま
でを載せてみます。おしまいはやや大風呂敷なんですが・・・
「スターは人に夢を見させる存在だが、スター自身が見る夢は神秘のと
ばりに隠れている。それが常識。岸恵子はこの常識をものの見事にくつ
がえした。ここにあるのは、愛する夫との突然の離婚から、彼の急死に
慟哭するまでの約十年間、一人娘とともに生きた波乱の月日を軸として
書かれたほんものの女の生気あふれる自伝だ。抜群の聡明さと度胸、逞
しい批判力と諧謔、誇り高い美意識と明るさが、この等身大の自画像を、
夢と愛と絶望の巨大なマルチ・スクリーンに生動する人生の、悲しうて
やがて面白き物語にした。」
一言最後につけ加えれば、岸恵子が感じ続けてきたさまざまのアンコ
ミュニカビリティ(意思不疎通性)の苦しみは、実は人間ひとりひとり
がたえず直面しているはずの普遍的問題であり、広くは全世界の現代的
諸問題も、すべてここに集約されると言ってもいいようなことなのであ
る。彼女は運命的にそのような場に自分を置き、繊細にして剛毅なしに
実験台と自らを化している。
ちょっと古めかしい感じだけどゴージャスな(つまり女優さんからの発想
でいうと化粧っけの濃い)修飾語句に彩られた文章は、意外にも違和感な
く読みやすく、なにも損なわない。岸の人となりだけでなく表現の意図も
ちゃんと感じられるという、さすが文学少女がそのまま立派に(≒無謀に
も)大人になってしまった姿・・・日本人のすごくナイーヴな感性や泣き
虫の性格としたたかな母親、そして案外の屁理屈好きと奇妙な勇気が同居
する、まだらに現れるんですな。「その感じ」が一貫している・・・、い
やほんと、特異な方。大岡の予言通り、岸は小説も書き始めたし。
いや、そんな話じゃなかったですね、やっぱり名作だと思いました。
前半の中東の突撃取材も、おしまいのルーツ日本や自伝風な部分ももちろ
ん面白かったんだけれど、まん中の「ベラルーシの林檎」というタイトル
で始まる章は実はバルト三国の取材で、この章がなければ本の価値が褪せ
てしまう、大事なところだったことだけは書いておきましょう。
以上。
そやそや、これ書いとかなアカンのでした・・・
手に入れたのはもちろん古本なんですが、読もうと思って開いたら、こんな
感じやったんです。これの単行本が文庫になってから半年以上たったある
時、新しい本が出たとかで、どっかの本屋でサイン会でもあったんやろね、
想像やけど。
なんとなくこのサイン、本物っぽい。