第一章 片想いのソマリランド
第二章 里帰りのソマリア
第三章 愛と憎しみのソマリランド
第四章 恋するソマリア
2015年1月/ドキュメンタリー/単行本/集英社/中古
<★★★★>
表紙の美人は普通の女性ではありません。
危険極まりない南部ソマリアを堂々と案内するジャーナリストで、「南」
のケーブル・テレビ局をまとめる野心満々の若きボス。
(紹介文)
アフリカ大陸の東端に広がる“世界一危険な地"ソマリア。
そこには、民主国家ソマリランドと海賊国家プントランド、内戦が続く
南部ソマリアがひしめきあい、現代のテクノロジーと氏族社会の伝統が
融合した摩訶不思議なソマリ社会が広がっていた。
西欧民主主義国家とは全く異なる価値観で生きる世界最大の秘境民族=
ソマリ人に夢中になった著者は、ベテランジャーナリストのワイヤッブ
やケーブルTV局の支局長を勤める剛腕美女ハムディらに導かれ、秘境の
さらに奥深くへと足を踏み入れていく。ある時はソマリランド初の広告
代理店開業を夢想。ある時は外国人男子にとって最大の秘境である一般
家庭の台所へ潜入し、女子たちの家庭料理作りと美白トークに仲間入り。
ある時は紛争地帯に迷い込み、銃撃戦に巻きこまれ・・・ もっと知りた
い、近づきたい。その一心で台所から戦場まであらゆる場所に飛び込ん
だ、前人未到の片想い暴走ノンフィクション。
どこそこに行ってきました、と言いたくなってしまういつもの高野節本。
ホントはこの前に書かれている『謎の独立国家ソマリア・・・』のほう
を先に読んでおくべきなんでしょうけど、まあこちらは興味本意なんで、
思ったが吉日ということで、賞まで獲っている上記をさておいて、新し
いほうを読むことにしました。
北に小国ジブチと、全体主義で情報がほとんどないヤバイ国いうことだ
けしか知らないエリトリアがあり、ジブチに最も近いのが超優秀だと評
判のソマリランド、海賊行為で有名なプントランド、国の体をなしてい
ない南部ソマリアが並ぶ。ソマリアは国際的にはまだ国として認められ
ていない!(北のジブチも国と書いたが、実はここも国としては認めら
れていないそうな) 民族的にはソマリ人というのは、隣のエチオピア
やケニア、ジブチにまたがって存在している。
思ったらいてもたってもいられなくなるタイプの著者が始めに入るソマ
リの世界はもちろん国家的に安定しているソマリランド。空港を出てす
ぐに人に取り巻かれてしまったところで、今度は警官に連れていかれ、
こりゃ逮捕かと縮み上がるが、実は安全にと保護された。そうとは思え
ず、おおいにビビるというような導入からこの本は始まる。
彼を助け出してくれたのは、ケーブルテレビ局の面々。彼らは揃って常
道を無視して体を張った、やったもん勝ちのジャーナリスト魂の持ち主
たち。この先も彼らの助けでプントランドや南部ソマリアにも潜入して
行けたわけです。
彼らの感じが、若い自分が所属していた時の早稲田の探検部さながらだ
ったんだって。そういや、いまや日本人探検家で今もっとも有名な角幡
唯介さんも所属したんでしたね(あぁ、共著まであるんだ)。
治安が安定している北のソマリランドは、砂漠が多く遊牧民の国。知恵
を出し合って安定した国家なり政府なりをイライラと運営している。国
を維持するのにいわばきゅうきゅうとした感じがあり、国情もぎくしゃ
くしている印象ですね。アフリカの東端にあって、明らかに中東系。
これに対し、南は国の体をなしていない。20年以上政府というものがな
かった!いま、政府は一応できたらしいが、日々テロが起きて不安定。
国土のほうは、北とはまるで違い、土地は肥沃(川がちゃんとある)で
農業ができていて、雰囲気は圧倒的にアフリカなんだって。
またそこの人々が、意外に生き生きしている不思議がよく伝わってきま
した。
気が付けば、真ん中、海賊国家プントランドのことについちゃあ、ほと
んど言及なかった。
南北の行き来は頑張ればだけれど、できちゃうんだ・・・でも、南じゃ
あ要人に随行を許される(≒頼まれる)というような事情があったんだ
が、不思議なことに、隣の隣の国のウガンダ兵(実にのんびりしている)
の護衛を受けていた。
ここで、国民性のこと。
明治維新後の日本に似てはいるものの、漱石や鴎外のように近代的自我
なんぞで悩みはしないし、イスラムの規範がしっかりして、しかも伝統
的な氏族社会なので、個人がアイデンティティに苦しむなんてことがな
い、「自分は何者なんだ」などと問うこともない・・・
なんでも天に代わって正義をなすストレート勝負(これはケーブルTVの
仲間たち)。
さらにさっきの続きで、、、
外国にはたくさん出ているが、絶対と言っていいほどソマリ人だけのコ
ミュニティの中だけで生きる。例えば日本に住んでも日本に対し驚くほ
ど無関心。『人間集団を形作る内面的な三大要素は「言語」「料理」
「音楽(踊りを含む)』と著者は最近考えているが、その一つ「音楽」
だって99%、ソマリのものしか聴かない。結婚の相手だって同じ。
それから、カートという飲酒に似た使い方の嗜好品(食べる葉っぱ)で、
みんなハイになりがちのような気がする。
更に、ソマリ民族の氏族社会への拘わりや徹底ぶりが何度も書かれ、読
んでいる分には理解できるが、現場じゃウンザリだろうに・・・
だからこそソマリランドでは政党は三つだけなんていう思い切った策ま
で採っている。わかっていてもどうにもならない「氏族依存症」という
ビョーキ。
よく言えば超・外向きなのに、思考や感覚は超・内向きというヘンテコ
リンな国(国民性)の人びとを相手に、疲れても疲れても臆面もなくソ
マリア愛を語る高野氏。
何度も訪れた結果、ケーブルTVに入り込んだメリットを生かして、まあ
これだけではないんだけれど、家庭に入り込むこと、家庭料理を食べる
こと(非常に難しい)・・・とか、秘境たる治安が悪いはずの南部ソマ
リアでモガディショやその外のコワイ世界を見て回ること、も叶えてし
まった。家庭に入り込んでの女性たちとのコミュニケーションがなんと
もおかしい。
そうは言っても、こんな付き合いにくい連中相手に、ほんとにもの好き。
気ー長いワ。
どこかのんびりした感じに受け止めてしまう高野節だけれど、実際は猛
進に近く、言葉習得の特技も生かして、情報量は思いのほか多かったで
すね。本の耳は折るもんじゃない!
ほんの僅か紹介したにすぎませんが・・・ソマリに行った気に? なりま
したヨ。ほんとです。ただし、著者のソマリ愛は(肝心なところなんだ
けれど)残念ながらよくわからなかった。その一方的な愛情・・・
そして最後は、脱力が伴うような話で終わりました。この“脱力感”、こ
の冒険家の他の本でもまま感じてきたことのような気がします。
メモを繋げたらいつも通りのだらだらになっちゃった。
ワタシとしては珍しくさらっと読んでしまいました。