休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

久々に グラズノフ 管弦楽曲全集から選んでみた

20200122(了)
グラズノフ(1865-1936) 管弦楽曲全集 第17集

勝利の行進曲 Op.40 9:46
セレナード 第1番 Op.7 4:02
3つのギリシャの主題による序曲 第1番 Op.3 14:46
セレナード第2番 Op.11 3:48
3つのギリシャの主題による序曲 第2番 Op.6 18:48
組曲「ショピニアーナ」 Op.46
 ⑥ポロネーズ 5:01
 ⑦夜想曲 5:06
 ⑧マズルカ 6:02
 ⑨タランテラ 3:14

  ウラディーミル・ジヴァ指揮/モスクワ交響楽団
  録音:2000年2月、ロシア、モスクワ、モスフィルム・スタジオ  Tot.70:33
  CD/管弦楽曲/Ⓟ&2003 NAXOS/輸入/中古
  <★★★~★★★☆>

〈CD帯紹介文〉 大好評の当シリーズ、本巻はやや「珍なる味わい」を持っ
た一枚となっています。まずは何といっても「勝利の行進曲」、「権兵衛
さんの赤ちゃんが風邪ひいた」のメロディーを主題としてしまった宿命で、
テンション高く盛り上がれば盛り上がるほど、耳からは聴こえない歌詞が
脳内で自然に湧き出し、思わず顔面の筋肉がほころんでしまいます。その
名の通りショパンピアノ曲管弦楽仕立てにしてしまった「ショピニア
ーナ」(バレエ曲「レ・シルフィード」の原型)も、オーケストレーション
としては絶妙ですが、原曲の性格がやや過剰に強調されたきらいがあると
ころがなんとも微笑ましいところです。

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グラズノフオーケストレーションのうまさは、ここでも非常によくわ
かる。ロシアにとどまらず、後期ロマン派とは一線を画すロマン派最後
で最高のオーケストレーターのひとりだと思う。「チャイコフスキー命」
みたいなところがまた好ましい。
ここでは、そのうまさがよくわかるのは①③⑤ですね。
①は紹介文にもあるように「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた」――
19世紀アメリカにおける南北戦争の時代の北軍への賛歌『リパブリック
讃歌』が元歌――が大々的に出て来はするが、ワタシの頭にゃ歌詞まで
は出てこないので、「珍」というほどじゃない。ワーグナーがプンと臭っ
てみたり、グリンカだとかムソルグスキーのような暑苦しさだってある。
しかもけっこう晴れがましい。ありふれていそうで、そうでもない。

 『ごんべさんの赤ちゃん』は、アメリカ民謡『リパブリック讃歌』を
 原曲とする日本の童謡・子供向けの歌。
 ごんべさんの赤ちゃん 歌詞の一例
   ごんべさんの赤ちゃんがカゼ引いた
   ごんべさんの赤ちゃんがカゼ引いた
   ごんべさんの赤ちゃんがカゼ引いた
   そこであわててシップした
 リパブリック讃歌;The Battle Hymn of the Republic;19世紀アメリ
 原曲における南北戦争の時代、北軍への讃歌として歌われたものが、
 以後愛唱されて民謡扱いになった。

 

ごく初期作品の③と⑤は、おととしだったか、スヴェトラーノフによる
交響曲全集の中にたまたまフィルアップされていて聴いた。その時の記
述を探してみたら、同程度の褒めかたながら、内容は結構違う感じでし
たね。両曲の主題ってギリシャものなのかなあという疑問は同じなんだ
が、今回のワタシの感性――実は映画の記憶――じゃあ、(ロシアの)
ユダヤ人のメロディのように聞こえた。アレンジの中ではボロディン
ったりリムスキー=コルサコフだったりもしましたけどね。
スヴェトラーノフ版(明らかにこのCDより演奏も録音も勝っている)の
鑑賞記では東欧だとかコーカサスの感じじゃないかと書いている。民謡
調というぐらいの一致点。印象なんて勝手なもんです。
この時、「交響曲第8番」と「フィンランド幻想曲」というのがべた褒め
でしてね、こっちのほうを聴きたくなっちゃった。(忘れないでおこう)

このNAXOSのシリーズを、嫌いではなかったんだけれど、遠ざかって、
別の演奏団体の交響曲全集なんかにチェンジしたのは、ひとえに録音の
寸詰まり感。ちょっと辛くなった。 それでもこうして聴きたくなったの
は、グラズノフの曲の魅力です。
その寸詰まり感からは逃れられないけれど、①③⑤の華麗で盛りだくさ
んなオーケストレーションはやはり素晴らしい。
②と④は派手さはなく、特徴がちょっと引っ込んだ穏やかでロマンティッ
クなセンスの楽曲。ボロディンの有名曲のメロディに似ていたり、単に
ロシアの民謡調だったり。とはいえ、セレナードとしては結構ドラマティ
ックだから、そういうことでは「珍」かもしれない。

変わり種は⑥-⑨の「ショピニアーナ」というショパンピアノ曲のオー
ケストレーション。⑥と⑧は超有名曲で、誰でも知っている。「原曲の
性格がやや過剰に強調されたきらいがある」と紹介されているんだが、
全然当たっていないと思う。もともとムードオケ向きなジャンル。それ
をムードものにもならず、大真面目にオーケストレーションして遊び心
がない。むしろもっともっと“過剰な強調”を加えてくれれば面白かった
のに、どちらかというと武骨なほど地味。作品番号からして初期のもの
じゃないだろうから、作曲家の定め、お金のためか義理か、さほど一生
懸命にやりたい仕事じゃなかったんじゃないかしらん。
せっかくの変わり種なんだけど、点数は入れられないな、ハイ。

 

突拍子もない曲調は絶対といっていいほどなく、金太郎飴ふうと言えな
くもないので、飽きも来るけれど、常に一定水準の明るくカラフルなオー
ケストレーションで楽しませてくれる職人グラズノフ、今回もちゃんと
聴かせてくれました。次につながりそうです。