休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

「妻を帽子とまちがえた男」

20200105(了)
オリバー・サックス/妻を帽子とまちがえた男
Oliver Sacks:THE MAN WHO MISTOOK HIS WIFE FOR A HAT
                     (訳)高見幸郎・金沢泰子
 はじめに
(第一部) 喪失
①妻を帽子とまちがえた男
②ただよう船乗り
③からだのないクリスティー
④ベッドから落ちた男
⑤マドレーヌの手
⑥幻の足
⑦水平に
⑧右向け、右!
⑨大統領の演説
(第二部) 過剰
⑩機知あふれるチック症のレイ
⑪キューピッド病
アイデンティティの問題
⑬冗談病
⑭とり憑かれた女
(第三部) 移行
追想
⑯おさえがたき郷愁
⑰インドへの道
⑱皮をかぶった犬
⑲殺人の悪夢
ヒルデガルドの幻視
(第四部) 純真
㉑詩人レベッカ
㉒生き字引き
㉓双子の兄弟
自閉症の芸術家
  訳者あとがき(高見幸郎)、参考文献

  初版1992年/晶文社単行本/医学エッセイ/中古
  <★★★★>

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この著者と書名を知ったのはえらい前ですが、「レナードの朝」以来、ほ
んとに久々にサックス、手に取ってみました。
書かれたのは1985年ですから、その後脳の研究はおおいに進み、脳学ブー
ムも起きるに及んで、知見としては少し古臭いのかもしれないけれど、ホ
モサピエンスなんてそんなに変わるまい!と気にせず。

朝方、寝る前に、気が向いたら一篇を時々読むというスタイルで読みー進
めたので、いつ果てるとも知れないような読書になってしまいました。
あまりにも時間がかかってしまったので、印象もいたって散漫なんですけ
どね、まあ読了は読了。
ご本人が相当つらい状況であることが多いのに、不謹慎なのですが、笑っ
てしまうことが多かった。

4つに分けて「喪失」「過剰」「移行」「純真」。便宜的かと思ったので
すが、しっかり意味があったのですね。でも、メモをしたのは「喪失」の
ものが断然多かった。

第一部からは、やっぱりタイトルにもなっている①でしょうか。この章は
‘喪失’で、ズバリ失認症がほとんど。とてもインパクトのあるおもろいタ
イトルです。この男は視覚的失認症で、特に顔貌失認症。インテリさんな
んだけど、顔というものを認識できない、変だとも思わない。だから奥さ
んを見ても奥さんの被っている帽子しかわからない・・・

第二部の‘過剰’からは、⑪の「キューピッド病」。若い時に梅毒を写され
ていたが出ず、なんと70年もの潜伏期間を経て88歳になってから梅毒のス
ピロヘータが活動を開始、神経を刺激し始めたことが分かった。その症状
というのが、若い男を見ると若やいで心ウキウキ、大はしゃぎ。一線(?)
を越えそうになったりする。もう一年近くも続いている。命にかかわるし、
ペニシリンのようなもので直るんだが、本人は幸せなので直してほしくな
いと主張・・・

⑫「アイデンティティの問題」は、コルサコフ症候群で、記憶が5分どころ
か、5秒しか持たないと言ってもいい男の話で、必死に物語を作ってアイデ
ンティティ守ろうとする。話の創作がものすごくうまいのだが、その必死
さに負っている。シーンとなっちゃう。

(映画でもこんな症状のものありましたネ)

第三部‘移行’からは「皮をかぶった犬」なんかどうでしょう。
薬物の常習者が、非常に嗅覚が鋭くなってしまう話。いろんなものが嗅ぎ
分けられるようになる・・・目をつぶっていても人がわかる。感情や性の
状態までわかる。(薬物はアンフェタミンのよう)
・・・ワタシは今犬を飼っていて、常々不思議に思っています、あの嗅覚
による厖大な臭気情報をいったいどう処理しているのかのメカニズム・・・
この能力の話は、退行してしまって、二度と復活しないまま終わってしま
うのが妙に残念。ワタシも一度経験したい。

最後の‘純真’は発達障害(様々)だけれど、サヴァン症候群でもあって、
欠陥を探されるだけでは見つからない、非常に優れた(場合によっては天
才的な)面を持っている患者を扱っている。アメリカの面白いテレビドラ
マ『グッド・ドクター』の設定そのものといってもいいような外科医の卵
のお話とそっくり!㉑は詩や演劇、㉒は音楽の記憶。

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ちょっとだけ紹介しました。

映画や物語を紡ぐ人なんかには、ネタの宝庫かもしれません。
頁の隅っこをあちこち折ってしまいました。
こんな読み方もたまにはアリかも。でも、要するに本を読む時間が作れて
いないだけのこと。