休みには中古屋のはしごⅢ

基本音楽鑑賞のつもり。ほかに映画・本・日記的なもの・ペットなど。

映画『インヒアレント・ヴァイス』

20240326(了)

映画『インヒアレント・ヴァイス

 ポール・トーマス・アンダーソン監督/ホアキン・フェニックス/ジョッシュ・ブローリン/
  オーウェン・ウィルソン/キャサリン・ウォーターストーン/リース・ウィザースプーン/ジェナ・マローン/
  ベニチオ・デル・トロ/エリック・ロバーツ/マーティン・ショート
 原作:トマス・ピンチョン
 2014年製作/149分/米/原題:Inherent Vice/DVDレンタル
 <★★☆>

邦題は、原題のまんま。これじゃ意味が分からんでしょう。
元々あるとか固有の、悪徳や欠陥・・・ですか。
 
1970年頃・・・ロサンゼルスで探偵をやっているラリー(ドック)を中
心にしたお話で、しゃきっとした格好をする時もなくはないが、たいてい自
堕落でやや年を食ったヒッピーまがい。(ジョン・レノン似の風貌)
色っぽい元恋人が不動産業界の大物の誘拐に絡んだ依頼を受ける。って、あ
りゃあ、受けるということでいいのかね。
GBFという危ないグループの中の男からある男の捜査を頼まれる。ある男と
いうのは、上記不動産の大物とかかわりがある。
ハーリンゲンという女が、死んでいるはずの夫の捜査を依頼する・・・
宅地開発と町のいかがわしい、あるいは怪しい商売などを行ったり来たり。
濃く絡んでくるキャラとしてはビッグフットというふざけた綽名の刑事。
ベースには「黄金の牙」という麻薬組織が絡んでいるらしい。等々。
 
探偵や刑事の捜査は、ごちゃごちゃ入り組んでいるらしい犯罪の本質にたど
り着けるのか、というようなことのようなんだが、どう見ても、シビヤな捜
査なんてもんじゃない。進んでいるんだか進んでいないんだか、観ているほ
うにはどうもよくわからないし、そもそもこのよく知られた監督さんは、謎
なんかハナからどうでもよくて、絡み合った人間関係や雰囲気を、彼流にの
んびり、かつハチャメチャに描いているだけ、というふう。
 
そういえばこの映画作家の作品、観たことあったなぁ・・・
ワタシは、アッ間違えた!と思ったが、好きな人も多いんじゃないかしらん。
有名な役者をたくさん使っていることからして、きっと評価も高いんでしょ
う。役者さんたち、みんなうまいというか、個性的だしね。
映画芸術としてはアリだと思うので、否定するものではありません。漫画や
絵本のような感覚。
でもワタシ、知らずにタイトルだけで借りたんですが、この作品、これまで
観たこの映画作家の作品も含めて、特に面白いと思えませんでした。ところ
どころのおかしみにクスッと笑えたりはするんですけどね。性に合わないの
で、しょうがないです。

 

現状と未来 : Z世代と沖縄の謎

口をはさみにくい先々月の記事です。

せんだっては、句読点に関する世代間の感覚のズレ、みたいなことで
天声人語を貼り付けたのでしたが、今回は、一挙に複雑怪奇なズレの
話。
 
一応、Z世代のこと、それも沖縄の、に収斂していく話のよう。政治

情勢も内包しているはずなのです。「沖縄季評」ですからね。でも実

はそうでもない。スタンスは存外広い。

そもそもZ世代なるものに関心を持ったことがなく、ワタシの子どもたち
と孫たちの間の世代だろ?ぐらい。その多くがスマホ依存症なんじゃない
かと思ったりするくらいのものなので、スマホすら持たぬワタシ自身はま
るで分っていない。
 
この先生の顔を見ていると、文章込みで、なんだか怒っているみたいだ。
観察者として網羅的に述べておられるけれど、ちょっと怒っているという
こと以外にはいまいち言いたいことが伝わってこなかった。

個人主義って、個人の怒りでいいの?」「これから一体どうなっていく

の?」という感じじゃないかしらん。

ここには提案のようなものはありません。
だから、ことはまとまらないけれど、いや、だからこそなのかもしれない
けれど、その現状に、妙にゾワッとするものがありました。「本土」との

様々なズレにはほぼ言及せず、どうせ自分事ではない「やまとんちゅ」に

わかるわけないのだし、という冷めたニュアンスだけがプンと匂い残った

感じでおしまい・・・

さあ、やまとんちゅのZ世代はどうなんだい?・・・ なんかあったな。

 

綴じ込むついでにアップしてみました。

映画『アサシンハント エイジェント:ゼロ』

20240319(了)

映画『アサシンハント

        エイジェント:ゼロ』

  ニック・スタグリアーノ監督/アンソン・マウント/アンソニー・ホプキンズ
        /アビー・コーニッシュエディ・マーサンデビッド・モース
  2021年製作/110分/G/アメリカ/原題:The Virtuoso/DVDレンタル
  <★★☆>

 

御大ホプキンズが、本が面白いので乗り気になったとか。低予算で、小粒な
作品。決して目新しいというものでもありません。
そのホプキンズの顔が、DVDのジャケット写真にバーンと載ってまして、な
んとなく引いてしまう感じでしたけどね、急いでいたんで、ぱっとひっつか
んでしまいました。
 
人里離れた山中のようなところで(知り合いになっただけの?)白い大型犬
とつかず離れず暮らす殺し屋の語りで進んでゆく「仕事」のお話。思わせぶ
りな喋りのボス(ホプキンズ)の指示にはちゃんと従う。殺し屋やボスの出
自、殺しの意図、意味は一切わからない。国外のケースは出てこない。
せかされたような仕事が二つ続く。準備が十分でない。一つ目では関係ない
人を殺してしまい、そのことがややトラウマ的に残るのだが、気を取り直し
て取り組んだ次の仕事は、さらに曖昧な部分が多い指示だったため、行き当
たりばったりにならざるを得ない。このお仕事がどうなって行くかが中心に
なる。もちろんのこと、非情な世界。
 
ただし、非情な世界であって殺伐としたストーリー展開であるものの、この
殺し屋の妙にクソ真面目な自問自答を聞きながら感じたのは、どういうもの
か、そこはかとないユーモア、あるいはおかしみ、あるいはばかばかしさ、
みたいなものでしたね。音楽で言うなら通奏低音、かしらん。
原題のヴァーチュオーソは、音楽では「ヴィルトゥオーゾ」という音で、広
いジャンルのものをなんでも完璧にこなすプロフェッショナルといったよう

な意味でよく使います。プロ(プロフェッショナル)、という時より格調が

高いですな。

 
さても、もちろんこんな世界の話なんで、ハッピーな終わり方をするはずも
ない。でもこれって果たして「アイロニー」?と言いたくなる感じなのです。
エンディングには白い大型犬がまた出てきて、締めてくれました・・・ 
この犬種、なんて言うんでしたっけ。(犬の種類のことはあまり知りません。
毛の長いでかいテリアというふうでしたね。ざっと見たところ、アイリッシ
ュ・ソフトコーテッド・ウィートン・テリア が似てました)
評価は低いようですが、意図的に緊張感をはぐらかしていて、存外オモロイ
と思う人もいるかもしれない。

(タイトルはなんだかヘンです、他にもあった「漆黒の暗殺者」なんてのは

論外)

ブラジル/マンハッタン・トランスファー

20240318(了)

BRASIL

  THE MANHATTAN TRANSFER

ソウル・フード・トゥ・ゴー(Djavan他) 歌Arr.:J・シーゲル+ジャヴァン
②ズー・ブルース(Djavan他) 歌Arr.:A・ポール
③ソー・ユー・セイ(Djavan他) 歌Arr.:C・ベンティーン、J・シーゲル、As;D・サンボーン
④カピム(Djavan) 歌Arr.:A・ポール、J・シーゲル、ジャヴァン、Ts;S・ゲッツ
メトロポリス(Ivan Lins他) 歌Arr.:A・ポール
⑥ヒア・ザ・ヴォイセス(Gilberto Gil他) 歌Arr.:J・シーゲル
⑦アクア(Djavan他) 歌Arr.:J・シーゲル
⑧ジャングル・パイオニア(Milton Nascimento他) 歌Arr.:J・シーゲル+ナシメント
⑨ノーツ・フロム・ジ・アンダーグラウンド(Ivan Lins 他) 歌Arr.:J・シーゲル
 
 CD/ジャズ系ヴォーカル/ⓅⒸ 1987 WEA/邦盤/中古
 <★★★★△>

これは10年前に聴いたCDの再聴・・・ 傑作!
 
ちょっと前に聴いた4枚組の最も出来のよかったもの(「ヴォーカリーズ」)
に、引けを取らない、いやむしろ凌ぐと言ってもいいアルバム。
順番も、その「ヴォーカリーズ」の次のアルバムに当たるので、なるほど、
一皮むけた時期に当たるんだと、納得しました。
 
ブラジルものといっても、決してサンバやサンバっぽいものばかりというわ
けではなく、単なるポップスというものも含まれていました。ボサノヴァ
なし。
また、サンバのアレンジもそれこそいろいろで、フュージョンやポップス風
のアレンジがうまく、ブラジル風味こそあるものの、そんなにこだわってな
いよーというようなつくりで、これが成功に繋がっていたと思います。
たった9曲とは言え、選び抜かれたものばかりのようで、ヴォ―カルとぴっ
たし。すべてとてもクォリティが高く、言うことなし。

 曲は、ジャヴァン(Djavan)という、ワタシ、ほとんど意識して聴いたこ
 とがない人のものが5曲。あとはイヴァン・リンスが2曲、ナシメント1
 曲、ジルベルト・ジルも1曲。
 ヴォ―カル・アレンジは7曲がシーゲル、2曲がアラン・ポール。先日ソ
 ロアルバムを聴いたベンティーンも一曲絡んでいました。
 
ヴォーカルは、アラン・ポールも悪くない(最後のトラック⑨は酩酊感を伴
うすばらしい出来!)けれど、アルバム全体としては、ジャニス・シーゲル
が、ヴォーカルアレンジもヴォーカル自体にも大活躍。⑦だったかな、高音
が、大好きなバーブラ・ストライザンドのものに似た感じに聞こえ、おおっ

という感じでしたね。彼女だけの出来のいいアルバムを何か聴きたい。

(つまり、シーゲルのことですが、ストライザンドのものを1枚、ずっと、

ほしいものリストに入れてあって、、こっちが先になるかも)

 

ヤツラが出てくるにはまだ2か月以上あるけれど・・・

そう、クビアカのことです。

昨日(4/9)の新聞で、珍しや、クビアカツヤカミキリの大きな記事。

このへんじゃあ、サクラの花もほぼ散ってしまい、次は当然この話題

だろうと。

もうだいぶ有名になったとは思いますが・・・アピールするなら、忘

れられる前の、今のうち!

  (字が小さくて見えないでしょうが面倒なので、ゴメンナサイ)
 

 

はじめは羽曳野市の例を挙げて、いつも花見している桜が何本も切られた
ことに驚いたという話。(まあそんなもんでしょう)
少しおいて、桜の名所「吉野」が警戒をしていること。7キロ離れたとこ
ろで被害が見つかった・・・(遅いよ)
その次は大和高田市の「―千本桜」という名所がたくさんやられていたと
いうもの。
一昨年だったか法隆寺で、季節外れながらワタシも、やられている桜の樹
を見たからね、奈良県も相当やられているのは間違いない。
で、次は東京でも見つかったって。ある取り組みを始めているとかなんと
か。早速動いているんで、大阪なんかよりは機敏かも。
去年コンサートのついでに大阪城公園の脇の川べりの桜並木を少し歩いて
チェックしてみたのですが、季節ではなかったとはいえ、あの独特のフラ
ス(木屑)は見当たらなかった。想像するに、市内ではあまり被害が目だ
っていないもんだから、甘く見ているんじゃないかねぇ。
次は和歌山の「もも研究所」の方のコメント、「クビアカにとって日本は

楽園だ」とおっしゃっているのを載せている。同じバラ科ゆえ、当然ウメ

もしっかりやられる。

 
日本で初めて被害が確認されたのは、名古屋港だというから、韓国や中国
から樹や木材の中に入った状態でやって来たもののよう。
それが案外じわじわとしか広がっていない。成虫になってからせいぜい2
~3キロしか行動しないから広がり方が遅いのだ。カミキリムシの常とし
て(見りゃすぐわかる)飛ぶのはあまり上手じゃない。
とはいえ、どうだろう、2-3キロも行動すれば、もっと早く広がるような

気もするけどねえ、どうでしょう。

とにかくこいつらは、他の虫たち同様、必要な草や木を「嗅ぎつける」と

んでもないセンサーを持っている。(テレビでだったか、その手の驚愕の

実験を観たことがあります)

 

大雑把な分布図や拡散具合を見てみると、

  2012年 愛知/ 2013年 埼玉/ 2015年 群馬・東京・大阪・徳島
  2016年 栃木/ 2017年 和歌山/2019 年 茨木・三重・奈良
  2021年 神奈川/2022年 兵庫 以上13都府県
 
今年もクビアカ・ウォッチャーではなくクビアカ・ターミネーターを、犬の
散歩時だけなんだけれど、めげずにやれるだろうか。散歩をするだけでこの

ごろはかなり疲れるようになってきたもので。まぁ、モーティヴェイション

問題です。

 (この3年、毎年500匹平均をターミネートして来てはいます。人間都

 合のひどい殺生。自慢なんてする気はまったくありません。犬の散歩時だ

 けでこれだけの実績が上がるほどいるんだよってことを知ってほしい。)

人海作戦が手っ取り早いから、わが市も、なにか報償とかインセンティヴを

企画すればいいのに・・・なんて、子供っぽいでしょうかね。

でなきゃ、直径15センチ以上のサクラの幹に悉く、下から大人の背丈ぐら

いまで、このカミキリが、「入れない・出られない網状のもの」を巻くか。

時期は、このへんじゃあ、6月20日すぎから7月末ぐらいまでです。

隣の記事は、「神宮外苑 遅れる樹木保全策」。

 

 

以下は言わずもがな。

もう何度も載っけましたけどね・・・

一匹だと普通にこう(上)ですが、出てくるとすぐに産卵しようとする

からなんでしょう、こういう(下)交尾中のに出くわします。三分の一

から半分ぐらいの確率で。

二匹いっぺんにやっつけられる(叩き潰す)ので、効率はいいんですが、

やや失敗しやすい。(片方を逃がしてしまいやすい)

このカミキリが出す典型的なフラス(木屑)が下掲。

これ、見つけたら、幹の中に間違いなくいたのです。

さあ、知っているサクラの木が伐り倒されちゃったとか、無くなったと
気が付かれたら、ああアイツのせいなのか、と思い出してください。

満開時には、ダメになった「枝」がホントによくわかりました。

サクラの花を愛で続けたいとお思いなら、、、

シロスジカミキリほど大きくないんで、恐さはないと思います。ただ決

して動きがスローではありません。たいがいは大人の背丈ぐらいまでの

ところにいます。見つけたら、四の五の言わない!素早く判断して、そ

の場で殺してください!

 

(ワタシは今年は本当に自分のモーティヴェイションが心配)

 

 

映画『CONTROL コントロール』

20240315(了)

映画『CONTROL コントロール

  ジェームズ・マーク監督/サラ・ミティッチ
  2022年製作/89分/カナダ/原題:Control/DVDレンタル
  <★★☆>

カミサンらしいスリラー系選択・・・
内側に尖ったいぼいぼが飛び出した30平米ぐらいの下界と切り離されてい
るらしい部屋で目を覚ましたアイリーンは、AIっぽい声でタスクをクリヤ

しないと娘が死ぬと言われ、頑張って徐々にむずかしいタスクに移行してゆ

く。

 
どうやら念力のような超能力の開発をされている風でアイリーンは被験者。
一つのタスクをクリヤしたら意識を失う。後頭部になにか埋め込まれている
よう。海と浜と自分と娘の単純な記憶が、四六時中思い浮かぶが、それがほ
んの少しづつ広がっていくという感じ。
 
ある時目覚めると、夫らしい男ロジャーがこの部屋に加わり、二人の関係性

を振り返りつつ、タスクをこなしつつ、二人してこの状況の謎を解こうとも

がく。

タスクが別のフェイズへ、つまりどんどんエスカレートして行き・・・彼女
はいわゆる「覚醒」が顕著になって行くのだが、悲しいことがわかってきた

り、悲劇的なことが起きたりで、いっかな「解決」には近づかないし解放さ

れもしない・・・

 
まあこんな感じのシチュエーションドラマで、摩訶不思議なお話。
デジャヴ感がなくはないのですが・・・
エンディングは、ひねってあるし、実際、それはエンディングじゃないので
す・・・ これぐらいしか書けません。
 
多分安くできているんでしょうし、シンプル至極な道具立てなのですが、あ
りそうで意外とないんじゃないですかねえ。そうでもないのかな。まぁこう
いうの、そんなに観ちゃいないですが。




ディック・フランシス/『侵入』

20240312(了)

ディック・フランシス/『侵入』

 菊池光訳
 1991年/ミステリー小説/早川文庫//ⓒ1985
 <★★★△>

気まぐれな再読です。さあどれにするかってんで手に取ったシリーズ24作目。

製本がもうだめになっていて、バラバラになってしまわないよう、注意しながら

の読書になりました。

 
「ロメオとジュリエット」のモンタギュー家とキャピュレット家よろしく、長き
にわたっていがみ合ってきたアラデック家とフィールディング家のことが述べら
れて、じゃあ、ロメオとジュリエットはというと、既にフィールディング家のホ

リィがアラデック家のボビィと、大反対を押し切って結婚してしまっており、厩

舎を運営している。よって、ロメオとジュリエットのラブストーリーではありま

せん。ただし、キットとホリィ兄妹にはある意外な秘密がある・・・ サスペン

ス・ミステリーです、当たり前ですが。

 
勿論英国の競馬界の話で、主役はホリィの兄キット。障害競馬のチャンピオンジ
ョッキーで、著者と同じという案外珍しい設定。
妹夫婦は小規模な調教厩舎の仕事をしているが、ある時、デイリーフラッグとい
う新聞が、盗聴したとしか思えない情報から、この厩舎の誹謗中傷を流し始め、
夫婦の仕事が大ピンチに陥ってしまう。
立ち上がるのが騎手であるキット。
対抗する勢力としては、とりあえずは当然この新聞社(まるでヤクザ集団)、
それから金と名誉欲の亡者アラデック家の当主、その他。
味方はほとんどいないが、競馬大好きで馬主、キットを信頼して騎乗させること
の多いカリシア王女。その王女様の姪のダニエル。(彼女は当競馬シリーズでは
お決まりのように出てくる「いい女」、インテリでマスコミ界にいる)
 
こんなところですが、これでミステリーの構図を紹介できたことになってはいま
せんのでご心配なく。
タイトルの「侵入」は日本で考えられた(どの作品もそう)もので、悪い奴らが
調教師の家に忍び込んで盗聴機らしいものを、取りつけたり取り外したりするた
めに忍び込む行為があるため、それから発想されたものでしょうか。
 
調教厩舎の経営が綱渡り的で、いかに大変かよくわかるというのも面白いと言え
ば言えますが、眼目はなんといっても探偵役が騎手であるということ。他の職業
が主役の場合(ほとんどがそう)と違って競馬シーンが結構あること、馬の気持
ちの掴まえ方やその難しさ、ケガや調教の色々など、いかにも専門家らしい目線
や表現が嬉しい。
 
さて、一応ミステリーですから、再読を楽しんだということで、中身には触れま
せん。かわりに引用を少し。
なんで危険な障害馬のレースの騎手をやるのかキットが訊かれて答えるあたり。
この先、恋人になる女性ダニエルとの会話・・・
 
  「イギリスでは、平地より障害のレースのほうが多いはずだ。いずれにして
 も、数はあまり変わらない」
  「だから、どうしてやるの?」
  「今言ったよ」
  「そうね」
  (略)
  自分がレースに出るのは、人がヴァイオリンを演奏するのと同じように、整
 合のとれた筋肉と直感的な精神の働きが一体となって自分自身の音楽を創り出
 すためだ、ともったいぶった説明を考えた。自分がレースに出るのは、馬と一
 体になることによって、流動感、律動的な興奮と無言の意思疎通が完成するよ
 う気分を味わうからだ。しかし、そのような気取ったたわごとを口にすること
 はできない。
  「生気が湧き上がるのだ」 私が言った、「馬に乗っていると」
  ダニエルがかすかに笑みを浮かべて私の方を見た。「あなたは馬の考えが読
 み取れるのだと伯母が言ったわ」
  「馬の好きな人間はみなそうだ」
  「でも、人によって差はある?」
  「それはわからない」
  彼女は頷いた。「たぶん、そうだと思う。あなたは人の考えも読めるのだ、
 と伯母は言ったわ」
  私はちらっと彼女を見た。「叔母さんは、いろいろなことを言ったようだね」
  「叔母は」 さりげなく言った、「あなたの車に乗っていけば、いたずらされ
 ることなく行き着けることを、私に理解させようとしていたのだ、と思うわ」
  「驚いたな」
  「伯母の考えが正しいことがわかったわ」
  「フム」
 
フランシスの男女のシーンや会話はべたつかない。慣れ染的なムードのところ。
読み慣れた雰囲気です。
騎手にしては背が高いこととか(武豊のお父さんも高かったなぁ)、障害レース
の騎手は平均的に平地競馬より騎手生命が短い話だとか、引用してみたいところ
は他にもいろいろあったけれど、なんとなくここを選んでしまいました。
 
もっと前の初期の作品にすればよかったかもしれません。
でもまあ、いいです。